第二幕第一場(1)

文字数 1,006文字

溶明。
リキ、ゲン、浮かび上がる。
シーツにくるまって横たわっているリキ。かたわらに腰かけているゲン。
何か飲む?
(首を振る)
いらない?
じゃ、水を。
水でいいの?(立ち上がりかける)
あーでも、やっぱり、いいです。(シーツにくるまったまま起き上がる)
ゲン、再び腰をおろす。間。
そんなに見ないでください。
僕は、別に。
はずかしいじゃないですか。
(微笑する)
(ぎこちなく)何ですか。
いや、「店でいちばんの子を行かせますから」って言われて、じつは僕も緊張してたんだ。妙に手なれた子だったらどうしようかと思ってね。君でよかった。
間。
何を考えてたの?
いつですか?
今。
ああ……何だったかなって。あの姫の名前。
ダユのこと?
ダユか。ダユは、どうして、自分の町を欲しがったんですかね。
そうだね。
自分の町なんて、あっても面倒なだけじゃないですか。そんなものないほうが、静かに暮らせるのに。
そうだね……。ダユは、さびしかったんじゃないかな。
さびしいと、町が欲しくなるんですか?
(笑って)もののたとえだよ。
さびしいから、服を買う。宝石を買う。車。マンション。一戸建。買っても買っても満たされない。孤独そのものが消えるわけじゃないからね。蟻地獄ですよ。みんな飲み込まれていく。わかっていても抜け出せない。もっとも、その蟻地獄がないと、モノは売れないわけだ。なぜモノが売れなければならないのか、もう、僕には、わからないけれど。(苦笑する)ごめんね、くだらないことを。
いえ。(ただ、ゲンの声を聞いている)
君は、欲しいモノはないの?
とくに、ないです。
何もないの? 一つも? 一つくらいあるでしょう。
(考えて)ある、かな。
何?
いえ、いいです。
教えてくれたっていいでしょう。いや、僕が買ってあげられるわけじゃないんだけど……
買うモノじゃないんです。
何なの?
(困って)はずかしいから……
(笑って)言ってよ。
……子ども、ですかね。
子ども?
男の子でも女の子でも、どっちでもいいです。
君みたいな、若くて、元気で、その気にさえなれば今からどんな人生だって可能だっていう子が、子ども?
やっぱり変ですかね。
変じゃないけど、どうして?
どうしてって、かわいいでしょ?
間。
(おずおずと)子ども、キライ、ですか。
好き、嫌いというより。(しばしの沈黙の後)うちの奥さんが、ずっと欲しがっててね。「どうして?」って、何度も泣かれて。
(はっとして)すみません。
(微笑する)いいんだよ。
間。
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登場人物紹介

リキ(力) 若い男。

タカ(高) 若い男。リキの「同居人」。

ゲン(源) 若くない男。タカの「客」。

ハツ(初) 若くない女。ゲンの妻。

ナツ(夏) 少女。

リキ&タカ(二人同時に)

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