第二幕第二場(3)

文字数 1,064文字

(体を起こし)あのね。俺ね。最近……、性格まるくなったと思わない?
思わないけど。
(再び撃沈)瞬殺……
(笑って)ごめんごめん。
ヒトがせっかく一世一代のコクハクをしようってときに。
何それ。
だからね。似てきたと思わない? リキと俺。

俺、あいつと自分の区別が、だんだんつかなくなってきてるの。

間。
ていうかこれものすごく当たり前なんだけどね。俺ら同一人物だからね。
うん。
何て言うんだっけ、えーと。俺がリキに、吸収合併?
それじゃ銀行でしょ。「統合」よ、人格の「統合」。
それ。「統合」すべきなんだよね俺ら。俺もね、こう見えてもね、リキのやつが安定して俺がお役ご免になって消えてなくなる日をめざして、日々努力しているわけで。
タカ君……

でもね。なんか不安なのよ。俺だけが影が薄くなっていってる感じなの。

あいつ、ほっとくとメシもろくに食わないし、ちゃんと寝ないし、赤信号でもふらふら渡るし。生きる気力っていうのが俺の担当だったのね。

(短い沈黙の後)ハッちゃんがいてくれたら、大丈夫かもしれないって気もするんだけど。

どうして、そんなこと、急に。
いちおうね、これって悪魔的にムシのいい話だってことは自覚してるわけ。だって、ハッちゃんは、ゲンさんの。で、リキは。ていうか、俺は。
あのね、あのね、ちょっと話整理させて。とりあえずうちのダンナのことはおいといて。
は??
リキ君ぜんぜん大丈夫じゃないよ。まだ弱すぎる。タカ君がしっかりしなくてどうするの。
(ふっと泣き笑い)普通、分裂患者に、もっと分裂したままでいろって言う?
私もね、自分でも何言ってるかわからないの。このところずっと変なことがありすぎて、もう、何が変で、何が普通か、ぜんぜんわからないの。でもね、言わせて。私たちみんな、沈んじゃだめ。イスだか机だか知らないけど、そんなのに負けちゃだめ。
(泣き笑い)ベタすぎっしょ。
私、あのお話の本を見つけて、読んだの。知ってた? 最後どうなるか。
洪水になってみんな沈んで終わるんじゃないの?
みんなじゃないの。王さまは、生き残るの。

王さまははじめ、娘を抱いて馬に乗って逃げるの。波がどんどんせまってきて二人とも溺れそうになるの。そのとき、お姫さまだけが、水に落ちるのよ。自分から落ちたのか、王さまがつき落としたのか、わからないけど……

あれ? なんでこんな話になった?

(笑っている)俺もわかんない。
とにかくね、私が言いたかったのは。
もういいよ、ハッちゃん。ありがとう。
俺だってね、たまには疲れちゃったりするんだ。でも、もう、大丈夫だから。
タカ、消える。ハツ、一人。
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登場人物紹介

リキ(力) 若い男。

タカ(高) 若い男。リキの「同居人」。

ゲン(源) 若くない男。タカの「客」。

ハツ(初) 若くない女。ゲンの妻。

ナツ(夏) 少女。

リキ&タカ(二人同時に)

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