第一幕第二場
文字数 579文字
ハツ、しばし、ためらう。
先生に、こんなことまでご相談させていただいて、申し訳ないんですけど。私、本当に、どうしていいかわからなくて。これ、見ていただけますか?(客席に向かって通帳を差し出す)うちの預金通帳なんですけど。ね、この頃は、少しずつ、引き出されてるでしょう。一万円とか、五千円とか。――いいえ、クレジットカードのキャッシングだから、何に使ったのかまでは、わかりません。でも、たぶん、どこかで食べたり、泊まったり、ただ、そういうお金だと思います。――ええ、もちろん、主人かどうかもわかりません。誰かがカードを拾って、勝手に使ったのかもしれません。でも、この、遠慮しいしい、引き出して、結局、手数料がよけいにかかって。そういう、思い切りの悪さがね。(寂しげに微笑む)やっぱり、あの人じゃないかと思うんです。
この二ヶ月、お金が減っていくのは、気が気じゃなかったですけど、それでもね。あの人が、どこかで生きててくれてる証拠かもしれないと、思うと。……
それでね、(もう一度通帳を差し出す)その後、ほら、ぴたっと止まってるでしょ、残高が十万を切ったところで。それから、ここです、先週。急に全額引き出してるでしょ。七十八円、残して。
それでね、(もう一度通帳を差し出す)その後、ほら、ぴたっと止まってるでしょ、残高が十万を切ったところで。それから、ここです、先週。急に全額引き出してるでしょ。七十八円、残して。
ハツ、消える。
リキとタカ、浮かび上がる。
リキとタカ、浮かび上がる。