第一幕第一場(2)
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以下、それぞれ、客席に向かって語り続ける。
この辺多いですからね、段ボールハウス。――ええ、たまに、救急車で運ばれていく人もいますよ。リヤカー引いてて、車にはねられたりとか。寒い夜に酒飲んで寝て、そのまま、とかね。――そうですね。気の毒っていうより、自分もいつか、ああなるんだなって。(微笑む)ホントですよ。その日暮らしですから。何かいい仕事、ありませんか?
へえー。おたく、心理カウンセラー。何か知らないけどエライんだ。で、なんでそんなエライ先生が人捜しなんかしてんの? 金もヒマも余っちゃってどうしましょうってやつ?――奥さんに頼まれた。ふーん。もしかしてデキてんの、その奥さんと? 冗談だって。――リストラで。ウツになって。おたくのところへカウンセリングに来てたけど、家出。しばらく路上生活。その後、行方不明。はあー。たんにダメなヤツなんじゃないの、そいつ?
バイトの行き帰りに、通る公園があるんですよ。そこの、噴水のところに、座ってたんです、あの人。いつも同じスーツだって気がついてから、気になり出して。後ろを通るたびに、背中を見てました。ずっと、家に、帰ってないんだなって。あの人も、帰る家がないんだなって。
あいつらホント目ざわり。臭いし。風呂入らない人間は全員死んでほしいよね。ただでさえ地球の人口増えすぎなんだから。いわゆる社会のお荷物ってやつ?――あ。おたく今一瞬、お前が言うかって思ったでしょ。思った。絶対思った。俺も自分で思ったもん、ウリ専が言うかよーって。目くそ鼻くそ? ドウゾク、ケンオ?(宙に指を走らせる)ゾクってどういう字だっけ。
おたくホントに警察でもヤーさんでも借金取りでもないのね? その、心理カウンセラーって、もしかして、ヤラれてるっていうかビョーキの人間も見慣れてたりするわけ?――だよね。仕事だもんね。(そわそわと)守秘義務っていうの? ほら、提供された情報で本人のプライバシーに関わるっていうの、そういうの守ってくれるんだよね?(再び挑発的に)まあね、お互いさまだよね。おたくもこんなイカガワシイところに来てたってまわりにバレたらヤバイよねえ?
(そわそわと)あのね。えーと。俺の同居人がその行方不明のオヤジのこと知ってるかもしれないんだけど、会ってみる? 暗ーいヤツ。俺とちがって。同居人っていうか、俺がそいつの居候なんだけど、――何想像してんの。(笑う)そうだよ。もろ怪しいカンケイ。
リキ、タカ、消える。
ハツ、浮かび上がる。