凶刃 Ⅶ

文字数 1,902文字

 ヘイムダル傭兵団がマーナガルム傭兵団に惨敗してから、およそ一月が経過した。再戦に向けて教練を重ねていたヘイムダル傭兵団のもとに、アフタマート青年同盟、マーナガルム傭兵団がモンテカルム城から出撃したとの報が届く。ゲッツはすぐさまカリム・ブライトナーと会談し、迎撃することを決めた。
「モンテカルム城に残っている兵数もわずかで、本気でアテン城を奪りにきていると思います」
「であろうな。アフタマート青年同盟の首魁、エグモントの気概が伝わってくるようだ。私もこの砦で守りに徹しきろうなどとは思っていない。やはり迎え撃って、打ち破るべきだろう」
 共闘しているカリムが、兵法に通じていることが幸いだった。ゲッツからしてみれば、怯えて兵を動かすのを躊躇う領主が一番困る。カリムが戦意を失わないことで、ブライトナー軍の兵も士気を保っているのだ。
 カリムとの会談を終えた後は、すぐに副長のリブロと軍議を開いた。リブロが雇っている密偵から情報が届いていた。
「アフタマート青年同盟とマーナガルム傭兵団は別個に動くようです。アフタマート青年同盟がウェーザーに、マーナガルム傭兵団がビュルガーに展開するようです」
 位置としてはアテン城を窺いつつ、こちらの砦を睨む場所だった。これまでの戦いよりも、一歩踏み込んだと言っていいだろう。ここからも、今度の出撃に対する意思が表れている。
「俺たちがマーナガルム傭兵団に当たり、ブライトナー卿にはアフタマート青年同盟と対峙してもらうのがいいだろうな。それしか方法がないともいえるが」
「それがいいでしょう。ブライトナー軍にシャールヴィ・ギリングは荷が重すぎます。もしまともにぶつかったら、ブライトナー兵が逃亡してまうこともあり得る訳ですから」
 カリムも戦術のほとんどをゲッツに任せていた。歴戦の傭兵であるゲッツに任せていた方が無難だと考えているのだろう。それもゲッツにとっては有難いことであった。
 すでに砦の外では傭兵たちが集まっていて、ブライトナー軍も集結を完了している。ゲッツもリブロも甲冑を身に付け、いつでも出撃できる恰好である。
 晴れた日だった。朝靄も取り払われ、雨が降る気配もない。砦の外に出たゲッツを、強い陽射しが迎える。
 ヘイムダル傭兵団から進発し、少し遅れてブライトナー軍が進発した。ゆったりと行軍するブライトナー軍に対して、ヘイムダル傭兵団の行軍は力強く速かった。
 しばらく進むと、放ってあった斥候が駆け戻ってきた。敵のいる場所は近い。ゲッツの顔つきもより引き締まっている。
「事前に調べた通りの布陣のようですね。我らは予定通り、ビュルガーのマーナガルム傭兵団と戦いましょう」
「マーナガルム傭兵団の布陣はどうなんだ?」
「中央にパイク兵を配し、両翼をギリング隊が固めています」
「ならば好都合だ。こちらの思う通りの戦いに引き込んでやるぜ」
 リブロが頷いた。自信のある顔である。それはゲッツも同じだ。今度はなす術もなくやられる訳にはいかない。ここで負ければ、ゲルニカにまで手を掛けられる恐れがあるからだ。
 ゲッツの要請に従い、カリムは自軍を率いてウェーザーのアフタマート青年同盟に向かった。迂闊に攻め込まず、守りを固めてくれと伝えてあった。まずはヘイムダル傭兵団がマーナガルム傭兵団を破る。そこからブライトナー軍は攻勢に転じ、ヘイムダル傭兵団が側面からアフタマート青年同盟に突っ込んで勝負を決めるという作戦だった。
 戦場に到着すると、ゲッツの指示で素早く兵が動く。この戦いのために隊の編成も行った。ヒュバートのもとにいた、エジル・ベンダーという男とランスロットを組ませ、小隊をひとつ増やした。
 エジル、ランスロットの率いる騎馬隊と、リブロの指揮する歩兵を中央に。ベイオルフの指揮する部隊を両翼に。ヒュバートの騎馬隊を遊軍とした。
 互いに相手の陣がよく見通せた。後はどのような戦法で破るかである。魔法でマーナガルム傭兵団の兵数を削ることが最も効果的だが、ゲッツは自軍の魔法兵では決定的な攻撃を与えられないと、すでに悟っていた。勝負はやはり歩兵と騎馬の戦いである。
 ゲッツがマーナガルム傭兵団を睨む。ゆっくりと左手を掲げると、合図の旗が振られる。前衛にいる魔法兵が呪文の詠唱をはじめた。
 一瞬空が暗くなったかと思った時、光のマジックミサイルが発生した。マーナガルム傭兵団の陣に飛び、結界を突き破ってデルーニ兵を撃つ。その間に、ヘイムダル傭兵団はゆっくりと前進していた。
(魔法の効果が終わった瞬間だ。一気に攻め立てる)
 また、ゲッツの合図が伝わる。そして、力強い角笛の音が戦場に響き渡った。
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