罪と罰 Ⅵ

文字数 1,970文字

 ランスロットとエジル、デュマリオが、デルーニ兵を瞬く間に斬り伏せていく。マーナガルム傭兵団の精兵だが、それを上回る実力者の前に、デルーニ兵も太刀打ちできなかった。
 しかし、真の脅威はデルーニ兵ではない。味方が次々と倒れても、なお落ち着き払っているシャールヴィ・ギリングである。
 ガウェインもブロードソードを構え、シャールヴィを睨み据えた。脳裏に蘇るのは、焼け落ちた故郷と、家族の最期の姿だ。怒りと憎しみを込めて、ブロードソードをしっかりと握った。
 デュマリオとシャールヴィが対峙する。デュマリオはピュサールを払って、シャールヴィの懐に飛び込もうとする。しかし、逆にシミターを払われると、反対側から飛んできた石突の一撃を受けた。
 態勢を崩したデュマリオに、シャールヴィが容赦ない追撃を加える。わずかにシャールヴィの体から陽炎のようなものが発生し、空間を歪める。
 ピュサールを両手で掴んだシャールヴィは、無防備なデュマリオに柄を思い切りぶつける。まともに喰らったデュマリオは大きく吹き飛んで、そのまま動かなくなった。
 シャールヴィは次の標的を定めた。ピュサールを振り上げ、デルーニ兵と対峙するランスロットに襲い掛かる。しかし、横から飛び出したエジルが、ピュサールの切っ先をいなした。
 その時倒れていた騎馬の傭兵たち数人が起き上がり、剣を抜いた。それに気づいたデルーニ兵が傭兵たちを迎撃する。ランスロットはエジルと共に、シャールヴィと向き合った。
 慎重に間合を取りつつ、ランスロットとエジルが機を窺う。二対一の局面でも、シャールヴィに焦りはない。ランスロット、エジル、双方の呼吸を測りながら、二人の動きを見極めている。
 ランスロットがアロンダイトでピュサールの切っ先を叩く。それと同時に、エジルが前へ出る。あろうことかシャールヴィは下がることなく、むしろ前へ出た。
「俺を殺ろうなんざ、百年早えってこと、思い知らせてやろうか」
 シャールヴィがランスロットに斬りかかる。その隙を衝いて、エジルがシャールヴィに攻撃を仕掛けた。だが次の瞬間、エジルの剣は撥ね返された。ピュサールの石突で殴り飛ばされたのだ。
 ランスロットの眼がきらりと光る。わずかに空いたシャールヴィの胴体目掛けて、アロンダイトを突き出す。命中したかと思われた時、シャールヴィのピュサールが振り下ろされ、アロンダイト空を泳ぐ。さらにピュサールの突きが繰り出され、ランスロットが弾き飛ぶ。
「仕上げだ」
 頭上でピュサールを振り回すシャールヴィの体に、力が満ちる。陽炎のようにゆらめき、闘気が燃え上がる。横一閃にピュサールで薙ぎ払うと、斬撃と衝撃がランスロットとエジルに炸裂した。吹き飛ばされたランスロットとエジルは、兵舎の壁に叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた。
 シャールヴィの体が硬直する。その時を狙いすまし、ガウェインは飛び出した。やすやすと間合に入り込んだガウェインは、シャールヴィの腹目掛けてブロードソードを突き出す。
 いきなりガウェインの視界が暗くなり、同時にこめかみに強い痛みを覚えた。ガウェインの顔は、シャールヴィの左手で鷲掴みにされていた。
「俺の技の隙を狙ってきたのは褒めてやろう。だが場違いだ、小僧。お前にはこの舞台にあがる資格もねえ」
 シャールヴィの蹴りをまともに受けて、ガウェインは、地面に倒れ込んだ。その時、手からブロードソードを落としてしまうすぐに起き上がろうとするも、眼前を覆う黒い影がガウェインを遮った。
「死ね、小僧!」
 シャールヴィがガウェインに、ピュサールを振り下ろす。やはり自分には無理だったのか。父との誓いも果たせず、家族の仇を獲ることも出来なかった。これまでの自分の生涯は、一体何のためにあったのか。シャールヴィの凶刃を前にして、ガウェインは悔しさに震えながら眼を閉じた。
 がきん、という音が聴こえ、ガウェインの世界が無音と化す。痛みも苦しみもなく、自分は逝けた。ガウェインはそう思った。
「お前は生きろ。ガウェイン。そう、言っただろ?」
 はっとしたガウェインは眼を開けた。生きている。自分はまだ生きている。眼前に見えたのは、父・デュウェインの背中だった。
「父さん…?」
「馬鹿野郎」
 ガウェイン目掛けて振り下ろされたシャールヴィのピュサール。それを受け止めていたのは、デュランダルを構えたゲッツだった。
「てめぇは…⁉」
 シャールヴィが眼を剥く。ゲッツがにやりと笑い、デュランダルを半回転させる。踏み込み、デュランダルで斬り上げる。距離を取ったシャールヴィが、即座にピュサールを構えた。
「俺がヘイムダル傭兵団の団長、ゴットフリート・ディーゼル・クラウゼヴィッツだ。覚えとけ」
 ゲッツとシャールヴィが対峙する。闘気が渦巻き、辺りに張りつめた空気が満ちていく。

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