第26話

文字数 3,951文字

 しかし、なぜ、そう思ったのか?

 それは、以前、あのアムンゼンが、リンダのファンだと、公言したことを、思い出したからだ…

 何度も、繰り返すが、あのアムンゼンは、30歳…

 外見は、3歳にしか、見えないが、ホントは、30歳だ…

 リンダは、29歳…

 だから、リンダに憧れるのは、わかる…

 歳が一歳しか、離れていないからだ…

 そして、あのリンは、32歳…

 チアガールだから、あくまで、公式発表というか…

 ホントは、32歳か、どうか、わからんが、それに近い年齢だろう(苦笑)…

 だから、30歳のアムンゼンと大差ない…

 それゆえ、アムンゼンが、憧れるのは、わかる…

 わかるのだ…

 男も女も、年上や年下に憧れるのは、自分が、若かったり、歳を取ったりしているから…

 だから、自分にないものを、相手に求める…

 若ければ、年上のセクシーな男性や女性だったり、頼りがいがある異性だったり…

 真逆に、歳を取れば、ただただ相手の若さに憧れる…

 すでに、自分には、ないものだからだ(笑)…

 だから、憧れる…

 そういうことだ(笑)…

 私は、そんなことを、考えた…

 つい、考えた…

 すると、バニラが、

 「…お姉さん…なにをボンヤリしているの?…」

 と、私に声をかけた…

 「…殿下に謝りに行くんでしょ?…」

 と、私を急かせる…

 私は、

 「…そうだな…」

 と、反射的に答えた…

 機械的に、答えたと、言っても、良い…

 私は、バニラが、私を急かすのを、見て、

 …やはり、嵌められた!…

 と、思った…

 が、

 それを、口にすることは、なかった…

 なかったのだ…

 私は、バニラに急かされて、マンションを出た…

 そして、バニラの運転するクルマに乗って、アムンゼンの元へ、向かった…

 バニラは、意外や意外、安全運転だった…

 このバニラのイメージ…

 元ヤンのイメージとは、真逆に、安全運転だった…

 ちっとも、スピードを出さんかった…

 なにしろ、乗っているクルマは、真っ赤なポルシェ…

 にもかかわらず、しっかりと安全運転に徹していた…

 おおげさに、言えば、時速40キロの制限があれば、時速40キロで、走る…

 そんな感じだった…

 私は、正直、イライラしてきた…

 「…バニラ…オマエ、もう少し、早く走れんのか?…」

 私は、助手席に乗りながら、つい、ぼやいた…

 口を出さすには、いられんかった…

 「…そんな…お姉さん…日本では、スピードを上げちゃ、ダメ…制限速度を守るに限るわ…」

 バニラが、説明する…

 「…バニラ…オマエの言うことは、わかるが、それでは、オマエは、なんで、こんな真っ赤なポルシェに乗っているんだ? …もっと、スピードが、出るだろ?…」

 と、私。

 「…見栄よ…見栄…」

 と、バニラ。

 「…見栄だと?…」

 「…そう、見栄…こう言っては、なんだけれども、私は、有名人…モデルとして、知られている…それが、誰もが、乗るファミリーカーにでも、乗っていれば、それが、世間にバレたとき、カッコ悪いでしょ?…」

 「…それは、わかるさ…でも、たしか、以前、リンダの運転するクルマに乗ったとき、物凄いスピードで、街中をぶっとばしてたゾ…」

 私は、言った…

 言いながら、以前、リンダの運転するフェラーリに乗ったときのことを、思い出した…

 リンダは、おとなしい外見に似合わず、スピード狂だった…

 まるで、レーサーが、サーキットを走るかのように、一般道を突っ走った…

 私は、ビビった…

 心の底から、ビビった…

 それは、まるで、街中で、ゴーカートに乗っているかのような衝撃だったからだ…

 だから、

 「…リンダ…オマエ…もう少し、ゆっくり走ることは、できんのか!…」

 と、激怒したことがある…

 それを、思い出したのだ…

 すると、ハンドルを握るバニラが、

 「…ハンドルを握ると、リンダの本性が、現れるのよ…」

 と、笑った…

 実に、意味深に笑ったのだ…

 「…本性だと? …どういう意味だ?…」

 「…リンダは、私と真逆で、外見が、おとなしめでしょ?…」

 「…そうさ…」

 「…でも、中身は、熱い女よ…きっと、私よりはるかに、中身は、熱く、情熱的…それが、運転したときに、出るのよ…」

 「…なんだと?…」

 「…よく運転を見れば、そのひとのホントの性格がわかるって、言うでしょ?…」

 バニラが、笑った…

 私は、それを聞いて、今さらながら、このバニラとあのリンダの違いを考えた…

 何度も言うように、このバニラは。元ヤン…

 元ヤンで、派手な印象…

 野性的なイメージだ…

 しかしながら、あのリンダは。真逆…

 おとなしめのイメージだ…

 だが、

 ホントは、このバニラが、言うように、全然違うのだろう…

 外見と中身が、全然違うのだろう…

 ハッキリ言えば、おとなしそうに、見える人間が、必ずしも、性格がおとなしくはない…

 また、真面目に見える人間が、皆、中身が、真面目であるとも、限らない…

 いかにも、遊んでいそうな若い男女が、異性関係に厳格だったり…

 真面目そうに見える男女が、あっちの男、こっちの女と異性関係に奔放だったり…

 つまりは、見た目と、中身は違うということだ(笑)…

 私は、今さらながら、考えた…

 考えたのだ…

 そして、なにより、そんなことを、考えれば、あのリンダ…

 リンダ・ヘイワース…

 ハリウッドのセックス・セックスシンボルと言われ、当然のことながら、色気ムンムン…

 にもかかわらず、男にまるで、興味なし…

 29歳にして、いまだバージンだという衝撃の告白を、本人から、聞いた…

 いや、

 29歳にして、バージンというのは、イマドキ、珍しくもなんともないかも、しれない…
 
 しかしながら、それを、ハリウッドのセックス・シンボルと呼ばれ、色気をウリにしている女が、告白するのは、意外過ぎる…

 意外過ぎるのだ…

 が、

 しかし、だ…

 あのリンダという女と知り合って、よく考えてみると、それも、驚かない…

 なぜなら、物凄く意志が、強いからだ…

 普通の人間なら、流される…

 そんなシチュエーションでも、揺らぎもしない…

 そんな鉄の意志を持っている…

 だからこそ、ハリウッドで、セックス・シンボルと、呼ばれるほど、成功したのだろう…

 自分の趣味嗜好と真逆でも、自分のウリが、よくわかっている…

 自分のウリが、セクシーだと、言うことが、よくわかっている…

 だから、それをウリにするのだろう…

 そして、大半の人間は、そんなことは、普通はできないものだ…

 また、仮にしたとしても、成功する人間は、ごくわずか…

 おそらく宝くじで、一億円を当てるぐらいの確率だろう…

 また仮に成功したと、しても、長くは、続かない…

 いつのまにか、芸能界から、いなくなる…

 そういうものだ…

 日本の芸能界とハリウッドの芸能界は、当然ながら、違うが、そこで、成功するのは、稀だということは、同じ…

 同じだ…

 共に、宝くじで、一億円を当てるぐらい、ありえないこと…

 さらに言えば、その世界で、長く活躍を続けることは、まるで、人生で、何度も一億円の宝くじを当てるぐらい難しいことだ…

 私は、思った…

 思ったのだ…

 このバニラも、リンダも、まだ若い…

 二人とも、二十代…

 だから、美しい…

 が、

 その若さも、いずれ、失われる…

 そして、その若さを失ったときに、二人が、今のように、活躍しているか、どうかは、疑問だ…

 だいぶ、怪しい…

 これは、嫌みでも、なんでもない…

 男も女も、若いときは、中年や、初老の男女に比べて、芸能界では、活躍できるものだからだ…

 それは、中年や、初老の男女に比べて、見た目がいいから…

 ずばり、ルックスが、いいから、活躍できる…

 そういうことだ…

 また、ハリウッドにしろ、日本の芸能界にしろ、基本、若い人が、映画や、ドラマの中心…

 歳を取れば、取るほど、脇役になる…

 主人公の父親や、母親のような役になる…

 すると、どうだ?

 当然ながら、自分たちの演じることのできる役柄が減る…

 映画やドラマは、主人公の友人、つまりは学校の友人や、歳が近い、会社の同僚が、物語の中心になるからだ…

 だから、出番が減る…

 それは、ちょうど、会社で、出世するようなもの…

 運よく部長や、取締役になれたから、生き残れたというのと、似ている…

 まあ、そんなことを、考えれば、どんな世界でも、生き残るのは、難しい…

 まるで、打ち上げ花火のように、一瞬は、輝いても、その後は、パッとしない人生を送る人間は、案外多いものだからだ…

 いや、

 一瞬でも、打ち上げ花火のように、輝くのは、難しい…

 たとえ、一瞬でも、世の中で、大きな花火のように、輝いた足跡を残すのは、至難の業だからだ…

 私は、バニラの運転する、真っ赤なポルシェの助手席に乗りながら、そんなことを、考えた…

 そして、そんなことを、考えられたのは、このバニラが、安全運転に徹しているから…

 あのリンダのように、無茶苦茶、スピードを出さないから、安心して、物事を考えることが、できる…

 そういうことだ…

 そして、このバニラと、あのリンダを比べたとき、つくづく、人間は、見た目では、わからないと、実感した…

 おとなしめのリンダが、スピード狂…

 片や、

 元ヤンのバニラが、安全運転…

 これは、真逆…

 誰が、見ても、真逆だからだ(笑)…

 そして、それこそが、二人の本性なのだろう…

 二人の真の性格なのだろう…

 あらためて、思った…

 内面と外面の落差…

 ひとは、誰もが、見た目と中身が違うのだと、あらためて、思ったのだ…

 そして、そんなことを、考え続けていると、

 「…お姉さん…着いたわ…」

 と、バニラが、告げた…

 あのアムンゼンの住む豪邸に到着したのだった…

               

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