第10話 その後
文字数 2,152文字
ふと気がつくと、リダンは、図書館の入口にいた。どのくらいたったのか、もう夕方だった。扉はしまっている。
「館長。ロームジィ館長。開けて下さい! たいへんです。ラーベスが、いってしまったんです。つまり……消えたんです!」
「わかってる!」
「ええ?」
「でも……頼む。頼むから帰ってくれ。リダン君、君にはまだわかっていないだろう。しかし、明日ははっきりするんだ。ゆるしてくれたまえ。わたしも残念だが、仕方ない。今日は帰って、そして、みんなに君の見たことを知らせてくれないか? わたしは、一人になりたいんだ」
「ちょっと館長さん。待ってください! ラーベスが、ラーベスが消えたんですよ!」
扉の向こうで、何かごそごそすると、それっきり、リダンが何を言っても、館長は答えなかった。それが最後だった。
何て人だ。リダンはマントをぎゅっと握りしめると、すぐみんなのもとへ帰り始めた。
ラーベスとの最後の場所は通らなかった。つらかったのだ。
やがて、ゆるい坂を下ると、部屋の明かりが見えてきた。
リダンは、旅に行くかどうか、迷い始めていた。
部屋の中へ入ると、もう夜の食事だった。
「リダン、だいぶ疲れたみたいだね。どこ行ってたんだい」
「これから話すよ」
「もうすぐ食事よ。すわってて」
「ラーベスが、まだ戻ってないんだ。リダン、君知ってるかい」
「これから話すよ」
「服がぬれてるぜ。一体、何やったの」
「これから話すよ。それに、今日は雨がふったじゃないか!」
みんなが、いっせいにリダンを見た。
「ちょっと、リダンさん。今日は、ずっと上天気よ」
「まさか」とリダンは思った。けど、あまり気にせず、今日のことを話し始めた。
ラーベスが目の前で消えたこと、あす図書館へ行くつもりだということ。そして、旅行者のことを。
ユティたちが食事の用意をしていたが、誰も食べようとせず、リダンの話が終った時には、もう冷たくなっていた。
「わたしも、おかしいと思ったわ。ラーベスったら、あの旅から帰っても、まるでわたしのこと相手にしてくれなかったし。謎解きに夢中だったのよ」
ユティは、ゆっくりと話し始めた。
「フロルを見つけてくれる名人さんが、いなくなったのね。でも、あの人の最後が聞けてよかった。たいていの人は、何もわからないまま、いってしまうから」
彼女は、それきり口をつぐむと、さびしそうに部屋を出ていった。
リダンは、いっしょに行ってあげようかと思ったが、そうしなかった。この事件について、みんなの意見を聞こうと思ったのだ。
アノネは、ユティを見送っていたが、やがてみんなの方を向いて、
「さ、リダンもいっしょに食事にしよう。すっかりさめちゃったけどさ」と言った。
遅い食事が始まった。
「あのさ、ユティは一人で大丈夫かい?」
のっぽのノールが言った。
「大丈夫さ。一人の方がいいかもしれないよ」とロークルが答えた。
「それよりさ、これからどうなるかを考えようじゃないか」ボージャーが言った。
「おれはいやだぜ!」
テッダだ。
「おれはイヤだ。こういうことに関わると、ろくなことがないんだ。ラーベスが旅に行くと言った時、おれは止めようと思った。けど、やつは一生懸命だったし。それで、からかうだけにしたんだ。旅から帰ると、原旅行者のレムルは消えたことも、ちゃんと思い出した。それも、あまり不吉なんで、口にしなかったのさ。今にして思えば、絶対止めるべきだった。何しろ、こんなやっかい事を持ち込んだのは、ラーベスのやつなんだから」
「テッダ! もういないラーベスのことを、そんなふうに言うなんてひどいぞ!」
アノネが、叫んだ。
「旅に出たのは、むしろ立派さ。ラーベスが行かなくても、誰かが行ったんじゃないかって、ぼくそう思うよ」
ボージャーが言った。
「そういや、おれたちここで、毎日遊んでさ、人数が減るのを待ってるだけじゃないか。ここは、確かに楽しいよ。でも、もっと大陸のことを知って、秘密を解いた方がいいのかもしれない」
ノールが言った。
「旅行は必要さ。何なら、みんなで……」
「絶対反対だ!」
今度は、テッダがどなった。
「おい。おれは心配して言ってるんだぜ。良くないよ。先に寝るぜ、おれは。君たちも、消えちまう前に、こんなことに首をつっ込むのは、やめにするんだな」
それはできない、リダンはそう感じた。
何か大きなものが、もう動き出してしまって、誰もそれに逆らえないんだ、とそんなふうに思ったのだ。何しろ、もう謎解きは始まってしまったのだから。
ろう下から、テッダのベッドへ向かう足音が聞こえてきた。話し合いは、その後も続いた。
ユティは、寝ていた。彼女は、泣いただろうか。そして、夢を見てるのだろうか。
それは、誰にもわからない。今は、ただ静かだった。窓がゆるく開いて、ユティには金色の月の光がさしていた。
その同じ夜、図書館長のロームジィは、ついに、明日リダンに読んでもらう手紙を書き終えた。そして、手を置き、目を閉じると、じっとしていた。
それが、彼にできるすべてだったのだ。
この館長の手紙こそ、ルウィン消滅の謎を解き明かすものだったわけだが、さて、館長は、このあとどうなっただろうか。そして、第二の旅行者は現れるのだろうか。
それを、次にお話ししよう。
「館長。ロームジィ館長。開けて下さい! たいへんです。ラーベスが、いってしまったんです。つまり……消えたんです!」
「わかってる!」
「ええ?」
「でも……頼む。頼むから帰ってくれ。リダン君、君にはまだわかっていないだろう。しかし、明日ははっきりするんだ。ゆるしてくれたまえ。わたしも残念だが、仕方ない。今日は帰って、そして、みんなに君の見たことを知らせてくれないか? わたしは、一人になりたいんだ」
「ちょっと館長さん。待ってください! ラーベスが、ラーベスが消えたんですよ!」
扉の向こうで、何かごそごそすると、それっきり、リダンが何を言っても、館長は答えなかった。それが最後だった。
何て人だ。リダンはマントをぎゅっと握りしめると、すぐみんなのもとへ帰り始めた。
ラーベスとの最後の場所は通らなかった。つらかったのだ。
やがて、ゆるい坂を下ると、部屋の明かりが見えてきた。
リダンは、旅に行くかどうか、迷い始めていた。
部屋の中へ入ると、もう夜の食事だった。
「リダン、だいぶ疲れたみたいだね。どこ行ってたんだい」
「これから話すよ」
「もうすぐ食事よ。すわってて」
「ラーベスが、まだ戻ってないんだ。リダン、君知ってるかい」
「これから話すよ」
「服がぬれてるぜ。一体、何やったの」
「これから話すよ。それに、今日は雨がふったじゃないか!」
みんなが、いっせいにリダンを見た。
「ちょっと、リダンさん。今日は、ずっと上天気よ」
「まさか」とリダンは思った。けど、あまり気にせず、今日のことを話し始めた。
ラーベスが目の前で消えたこと、あす図書館へ行くつもりだということ。そして、旅行者のことを。
ユティたちが食事の用意をしていたが、誰も食べようとせず、リダンの話が終った時には、もう冷たくなっていた。
「わたしも、おかしいと思ったわ。ラーベスったら、あの旅から帰っても、まるでわたしのこと相手にしてくれなかったし。謎解きに夢中だったのよ」
ユティは、ゆっくりと話し始めた。
「フロルを見つけてくれる名人さんが、いなくなったのね。でも、あの人の最後が聞けてよかった。たいていの人は、何もわからないまま、いってしまうから」
彼女は、それきり口をつぐむと、さびしそうに部屋を出ていった。
リダンは、いっしょに行ってあげようかと思ったが、そうしなかった。この事件について、みんなの意見を聞こうと思ったのだ。
アノネは、ユティを見送っていたが、やがてみんなの方を向いて、
「さ、リダンもいっしょに食事にしよう。すっかりさめちゃったけどさ」と言った。
遅い食事が始まった。
「あのさ、ユティは一人で大丈夫かい?」
のっぽのノールが言った。
「大丈夫さ。一人の方がいいかもしれないよ」とロークルが答えた。
「それよりさ、これからどうなるかを考えようじゃないか」ボージャーが言った。
「おれはいやだぜ!」
テッダだ。
「おれはイヤだ。こういうことに関わると、ろくなことがないんだ。ラーベスが旅に行くと言った時、おれは止めようと思った。けど、やつは一生懸命だったし。それで、からかうだけにしたんだ。旅から帰ると、原旅行者のレムルは消えたことも、ちゃんと思い出した。それも、あまり不吉なんで、口にしなかったのさ。今にして思えば、絶対止めるべきだった。何しろ、こんなやっかい事を持ち込んだのは、ラーベスのやつなんだから」
「テッダ! もういないラーベスのことを、そんなふうに言うなんてひどいぞ!」
アノネが、叫んだ。
「旅に出たのは、むしろ立派さ。ラーベスが行かなくても、誰かが行ったんじゃないかって、ぼくそう思うよ」
ボージャーが言った。
「そういや、おれたちここで、毎日遊んでさ、人数が減るのを待ってるだけじゃないか。ここは、確かに楽しいよ。でも、もっと大陸のことを知って、秘密を解いた方がいいのかもしれない」
ノールが言った。
「旅行は必要さ。何なら、みんなで……」
「絶対反対だ!」
今度は、テッダがどなった。
「おい。おれは心配して言ってるんだぜ。良くないよ。先に寝るぜ、おれは。君たちも、消えちまう前に、こんなことに首をつっ込むのは、やめにするんだな」
それはできない、リダンはそう感じた。
何か大きなものが、もう動き出してしまって、誰もそれに逆らえないんだ、とそんなふうに思ったのだ。何しろ、もう謎解きは始まってしまったのだから。
ろう下から、テッダのベッドへ向かう足音が聞こえてきた。話し合いは、その後も続いた。
ユティは、寝ていた。彼女は、泣いただろうか。そして、夢を見てるのだろうか。
それは、誰にもわからない。今は、ただ静かだった。窓がゆるく開いて、ユティには金色の月の光がさしていた。
その同じ夜、図書館長のロームジィは、ついに、明日リダンに読んでもらう手紙を書き終えた。そして、手を置き、目を閉じると、じっとしていた。
それが、彼にできるすべてだったのだ。
この館長の手紙こそ、ルウィン消滅の謎を解き明かすものだったわけだが、さて、館長は、このあとどうなっただろうか。そして、第二の旅行者は現れるのだろうか。
それを、次にお話ししよう。