第56話 彼と

文字数 1,009文字

 彼らは、言葉をかわした。
 ゼルとサーナンは同じくらいの年齢で、レイシーズより少し下のようだ。
「さて、と。おれたち、狩りの途中なんだけど」
ゼルが言った。
「一緒に来る?」
 ネムはうなずき、四人は歩き出した。
「もうちょっと、静かに!」
 ネムとレイシーズは、注意される。
 森の人と同じように、静かに歩くことができない。獲物が逃げてしまう。結局、何もとれなかった。
「今日は、もうよそう」
「これでも食おうぜ」
 森の人は、背中の荷物から、干し肉のようなものを取り出し、分けてくれた。座って、それをかじりながら、ゼルが言った。
「リルアは、もう行ったかな」
「リルアって、君たち森の族長だろ。どうかしたのか?」
 ネムが、問いかけた。
「人を集めて、ガダル川の方へ行ったよ」
「ほんとか?」
「ああ。行きたいやつだけ、つれてね」
「たしか、ドワンも行ったぜ」
「ドワンて、だれだい?」レイシーズが、聞いた。
「弓の、第一の使い手さ」
「森の人も、助けに来てくれるようだな」と、ネムは、自分たちの事情を話した。人間と、ダールとの戦いのことを。
 しかし、ゼルとサーナンには、興味がないようだ。
 レイシーズも話した。
「おれたちは、どうしても、ルーンの地へ行かなきゃならない。サリュス連山を越えてね。助けてくれると、うれしいんだけど」
 夜になった。
 それぞれ、横になろうとすると、サーナンがゼルを呼んだ。
「おい、ちょっと来いよ」
 二人は、離れたところへ行った。
「あのさ、ゼル」
「ん」
「お前、お客さんたちと、行くつもり? え? やめようよ」
「どうするかな。おれは、行ってもいいのさ」
「やめちまえよ。やだぜ」
「いや。二人をつれて、サリュス連山を越えるよ」
「本気かい?」
「うん。実はさ」
「実は?」
「何かそれが、おれの役目だって気もするのさ」ゼルは、言った。
「役目? へえ」
「おかしいか」
「まあ、好きにするさ。あーあ、と。もう、寝るか。じゃ、ここでお別れだな。明日は、君たちより早く行くよ」
「またな!」
 
 次の朝。
 ゼルが、したくをしていると、ネムとレイシーズも起きてきた。
「あれ、もう一人は?」
「サーナンは、ほかへ行っちゃった」
「じゃ、君は?」
「あなたたちを、案内するよ」
「そりゃ、よかった」
「ありがとう」
 三人は、出発した。
「サーナンは、どこに行ったんだい?」
「さあね。知らないさ。それが、おれたちのやり方だから」
 彼らは、シイフの森を通り、サリュス連山を目指す。
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