第9話 ラーベス
文字数 1,421文字
次の日、めずらしく朝からくもっていた。
「いやな天気だ。雨なんかふらすなよ」
ぶつぶつ言いながら、ラーベスはカヤを持って、南の丘へ急ぐ。待ち合わせだ。リダンとここで会って、一緒に、図書館のロームジィ館長に相談にいこうというのだ。もちろん、旅の出発についてだ。
丘へ着く前に、パラパラと雨がふってきた。
「ちぇっ」
ラーベスは、カヤを開いた。真っ白なカヤだ。
丘に着くと、リダンが、もう待っていた。
「やあ、リダン。さ、入れよ」
リダンは、カヤを持っていなかった。
「少しぬれちゃったね。長く待った?」
「いや。着いてちょっとしたら、雨がふってきたんだ」
「でも、カヤは持ってるんだろ。何色?」
「青だよ。君のは真っ白だね」
二人は、雨がパラパラふる中を、図書館へと行った。しかし少し行くと、急に激しくなってきて、空が真っ暗になった。
「今日は、よほどおかしいぞ。こんなにふるなんて。足がびしょびしょ」
「うん。でも、もう少しだから急ごう」
風も出てきた。
「リダン、少し休まないか?」
ラーベスが突然言った。
「どうして。図書館はすぐそこだよ。こんなところで、ぐずぐずするなんて。向こうに着いてから、ゆっくりしたほうがいい」
ラーベスが、どうしてこんなことを言ったのか。彼らしくない。リダンは、変だと思った。
やがて、空はますますひどくなり、カヤが吹き飛ばされそうになった。その灰色の世界の中で、二人のカヤだけが、白く輝いていた。
おかしいぞ、図書館はこんなに遠かったかな、と思ったその時。
「リダン、ちょっと。待ってくれないか?」
ラーベスが、苦しそうに言った。気配を感じて顔を見ると、彼は真っ青だった。
「ラーベス! 大丈夫かい? 顔色が悪い。気持ち悪いの?」
ゴホンゴホンと、せきをするのが聞こえる。
「ラーベス、ぼくにつかまれよ。雨に打たれちゃ、よけい悪い」
「いや、ここでいいんだ……」
リダンは、またしても、おかしいと思った。気分が悪いくせに。雨の中で、こんなところで休むなんて。
しかし、ラーベスの声は真剣だったので、何も言えなかった。
「聞いて。どうやらいけないらしい。ぼくの番が……」
ラーベスは、せきこみながらしゃべり出した。
リダンは、恐ろしい予感につらぬかれて、ぼう然として聞いていた。
「ラーベス、君……」
「黙って! よく聞いて。これで、はっきりしたよ。ぼくは、第一の旅行者だ。レムルのあと、とだえた旅行者が、ぼくからよみがえったんだ」
ラーベスは、とても早口になっていた。
「ぼくは消えるけど、これでいい。旅行者の復活が、謎を解き明かすのだから。君が二番目になるかどうかは、わからない。旅に行くかどうかは君の自由だし、そして、それは運命だろう。ただ、これをもらってくれないか」
ラーベスは身につけていた、原旅行者・レムルの形見のマントをはずして、リダンにわたそうとした。
リダンは、もうラーベスがそこにいないんじゃないかと不安になって、手を差し出した。
「これを君に……あげたいんだ……」
「ラーベス!」
「お別れだ……それじゃ、さよなら」
リダンは、ラーベスからマントを受け取ると、彼の手を握ろうとした。手にふれて、もう放さないぞ! と思った瞬間、ラーベスは消えていた。
リダンは、マントを受け止めただけだった。
雨はいつの間にかやみ、太陽が光っていた。
腕にかけたマントが、ひるがえる。
リダンは、風に吹かれたまま、そうして、じっと立ちつくしていた。
「いやな天気だ。雨なんかふらすなよ」
ぶつぶつ言いながら、ラーベスはカヤを持って、南の丘へ急ぐ。待ち合わせだ。リダンとここで会って、一緒に、図書館のロームジィ館長に相談にいこうというのだ。もちろん、旅の出発についてだ。
丘へ着く前に、パラパラと雨がふってきた。
「ちぇっ」
ラーベスは、カヤを開いた。真っ白なカヤだ。
丘に着くと、リダンが、もう待っていた。
「やあ、リダン。さ、入れよ」
リダンは、カヤを持っていなかった。
「少しぬれちゃったね。長く待った?」
「いや。着いてちょっとしたら、雨がふってきたんだ」
「でも、カヤは持ってるんだろ。何色?」
「青だよ。君のは真っ白だね」
二人は、雨がパラパラふる中を、図書館へと行った。しかし少し行くと、急に激しくなってきて、空が真っ暗になった。
「今日は、よほどおかしいぞ。こんなにふるなんて。足がびしょびしょ」
「うん。でも、もう少しだから急ごう」
風も出てきた。
「リダン、少し休まないか?」
ラーベスが突然言った。
「どうして。図書館はすぐそこだよ。こんなところで、ぐずぐずするなんて。向こうに着いてから、ゆっくりしたほうがいい」
ラーベスが、どうしてこんなことを言ったのか。彼らしくない。リダンは、変だと思った。
やがて、空はますますひどくなり、カヤが吹き飛ばされそうになった。その灰色の世界の中で、二人のカヤだけが、白く輝いていた。
おかしいぞ、図書館はこんなに遠かったかな、と思ったその時。
「リダン、ちょっと。待ってくれないか?」
ラーベスが、苦しそうに言った。気配を感じて顔を見ると、彼は真っ青だった。
「ラーベス! 大丈夫かい? 顔色が悪い。気持ち悪いの?」
ゴホンゴホンと、せきをするのが聞こえる。
「ラーベス、ぼくにつかまれよ。雨に打たれちゃ、よけい悪い」
「いや、ここでいいんだ……」
リダンは、またしても、おかしいと思った。気分が悪いくせに。雨の中で、こんなところで休むなんて。
しかし、ラーベスの声は真剣だったので、何も言えなかった。
「聞いて。どうやらいけないらしい。ぼくの番が……」
ラーベスは、せきこみながらしゃべり出した。
リダンは、恐ろしい予感につらぬかれて、ぼう然として聞いていた。
「ラーベス、君……」
「黙って! よく聞いて。これで、はっきりしたよ。ぼくは、第一の旅行者だ。レムルのあと、とだえた旅行者が、ぼくからよみがえったんだ」
ラーベスは、とても早口になっていた。
「ぼくは消えるけど、これでいい。旅行者の復活が、謎を解き明かすのだから。君が二番目になるかどうかは、わからない。旅に行くかどうかは君の自由だし、そして、それは運命だろう。ただ、これをもらってくれないか」
ラーベスは身につけていた、原旅行者・レムルの形見のマントをはずして、リダンにわたそうとした。
リダンは、もうラーベスがそこにいないんじゃないかと不安になって、手を差し出した。
「これを君に……あげたいんだ……」
「ラーベス!」
「お別れだ……それじゃ、さよなら」
リダンは、ラーベスからマントを受け取ると、彼の手を握ろうとした。手にふれて、もう放さないぞ! と思った瞬間、ラーベスは消えていた。
リダンは、マントを受け止めただけだった。
雨はいつの間にかやみ、太陽が光っていた。
腕にかけたマントが、ひるがえる。
リダンは、風に吹かれたまま、そうして、じっと立ちつくしていた。