第64話 夜襲

文字数 1,224文字

 人間たちは、すでにほとんどがガダル川を越え、南のソデクの国で、再集合をしていた。
 そして、この夜、最後の見張りたちが、川を渡ろうとした時、襲われた。
 何人かは、すぐ船にとび乗って、のがれた。しかし、帰らぬ者もいたのだ。
 彼らを襲ったのは、小さな部隊だったが、何か、人に恐怖を感じさせる存在が加わっていた。
「セト、だいぶ遅れた。先に行け。おれがくい止める」
「イスル、一人じゃ無理だ」
「いいから行けっ!」
 そう叫びながら、イスルは、敵のダルトーを切り倒した。
 セトは、川岸まで走り、流れの中に消えていった。
 イスルも、敵を払いながら、川へ向かう。船まで、もう少しという所で、いやなものを見た。
 それは、ダルトーではないのが、すぐわかった。
「こいつは? バルヌス? まさか、この世界に——!」
 イスルは切りつけたが、バルヌスの体は剣を通さない。
 彼は、首をつかまれ、声を発することもなく、絶命した。バルヌスは、その体を放りなげ、すてた。血にそまった体が、地面にあたり、はねた。
 ダールは、この光景を、遠くから見て、わらっていた。
 そして、別の考えを思いつき、すぐ実行した。
 ダルトーに、弓矢を装備させたのだ。
 人間たちに、再び負けることは、できない。
 
 生き残った見張りは、川を渡った。
 悪の軍団は、侵攻している。
 ダールの力で、川の水面を、地面のように渡る。
 見張りたちが、人間のもとへ着いた時、敵は、すぐそこまで迫っていた。
 彼らは、道を走り回り、わめいた。
「みんなを起こせ! 起きろ! 敵だ、やつらがやって来たっ」
 月もない、暗黒の夜。
 ダルトーの放つ矢が、闇をさいた時、人々の多くは、眠っていた。
 しかし、襲撃を知ると、それほどあわてず、逃げ出した。
 この日の来ることは、予想していた。
 戦った人もいた。組織だってはいなかったが。
「と、こっちはおれと。あ、そこの二人、来てくれ。よし、行くぞ」
 彼らは、二人か三人ずつで組むと、敵に当たり出した。暗い中で目をこすりつつ、やたらと剣を振り回す。
「あぶねえな! う、おまえ、ツテルじゃねえか。おれを殺す気か?」
「お互いさまだろ。あとあと。とにかく、今は、やつらをたおす」
 ツテルは、ヘイの背中を押すと、剣をかまえて走り出した。
「何だ、まてよ! おれも行くって」
 ヘイは、あとを追った。
 
「ふん、弓が相手か」
「ふざけるな!」
 森の人は、ダルトーが弓を持っているのに気づくと、やる気が起きたようだ。
「おれたちに、かなうかよ!」
 森の人たちは、十人もの固まりになって、一斉に射掛けた。あっという間に、何十本の矢が打ち出され、敵をなぎ倒していく。
 一時の防戦ののち、人間たちの抵抗はくずれ、後退に入った。
 火が燃えさかり、あたりは煙にまかれた。
「ねえ、あっちにだれかいるよ」
「ちょっ、ニテン! あたしたち逃げないと。こっちが危ない。こっちですよ、こっち!」
 ハノワは、子のニテンをつれて、ここを離れていった。
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