第31話 魔法使い

文字数 1,365文字

 こちら、ルウィンラーナ。
 ルウィンたちが、怒っている。このあたりが、なぜか寒くなり、ちっとも住みよくないのだ。
 さしあたり、旅に行くとも言わないが、アノネもぷんぷんしている。
「あとすこし、あったかくならないの!」
 ユティは、大変な力をつけた。
 昔の魔法を復活させて、自分のものにしたのだ。本を読んだおかげだが、テッダは、横目でにらんでいる。
「何の役に立つのかねえ。心配の種が、一つふえちゃったよ」
 そして、ルウィンラーナを引っ越そうという話が出てきた。
 どこへ行くのか?
 北のルーンの木か、西のハラルドの塔かで、最後までもめたが、結局、西へ行くことになった。ユティが、「人が大勢いる所はいや」と言ったのと、みんなが、「キリス・ギーに会ってみたい」と言ったからだ。
 それは、恐いもの見たさもあったが、ルウィンたちは、自分たちと姿の似ている人間より、怪物の方に親しみを感じていた。
 さて、次の問題は、住む場所。家をどうするかだった。家は、持っていけない。
 ところが、ボージャーが、すごい考えを発表した。彼は、こう言った。
「おい、家ならユティの魔法で動かしてもらおうぜ!」
 
 ユティが、顔を真っ赤にして、がんばっている。
 口で、魔法を唱えている。今、ほんとに家を動かせるか、みんなの前で挑戦しているのだ。
 ルウィンたちは、心配顔だ。家より、ユティの方を見ている。一人、ハーレイは笑っていた。テッダは、にやにやしている。
 家がふるえたように見えた。
「あ。動いた!」という間もなく、家は空中に持ち上がると、ぐうんと飛んでいき、はるか向こうへ落下した。
「うわー」
 どおん、という音といっしょに、地面がゆれた。
 みんな、あわてて家の落ちた方へかけていく。
「すげえ」、とテッダも急いで走り出した。
 ハーレイは、もとの家のあった場所に、きれいな光る石を見つけ、そっとそれを拾うと、みんなのあとを追った。
 家は、無事に着地していた。
 ただ、ユティが途中で倒れて、アノネが支えたが、ここへ来てぐったりして、目を開かなくなった。
 みんなびっくりして、おろおろしている。ハーレイは、大丈夫だろうと思っていたが、夜、彼女は熱を出した。
 がんばりすぎたようだ。
 この計画に、一番反対し、また賛成したのは、ユティ自身だった。
「家を動かすなんて、そんなばかげた事に、わたしの魔法は使えないわ」というのが反対の理由だった。でも心の中では、「もし成功すれば、みんなわたしを尊敬するわ」と期待していたのだ。
 数日して、彼女の熱は下がった。
 
 さあ、今日は、図書館と博物館を動かすのだ。
 ユティは、張り切っている。
「いけ、ユティィィ」
 テッダが、夢中で応援する。
 ユティは、力の使い方にも慣れ、家は、最初の時よりずっと西へ動かしてあった。ところが、図書館と博物館は、どうしても動かない。
「本とか、昔のものとか、たくさんつまってて重すぎるんだ」と、みんなでなぐさめた。
 ユティは、がっかりするどころか、こんなことを言って、いばっている。
「何よ、このくらい。あそこにあるのは、わたし全部よんでおぼえてるから、平気よ。心配ないわ」
 
 ハーレイは、こんな騒ぎを見ながら、考える事があった。
「なんかもっと大事な、やることがあるような気がするけど」と思う。でも、すぐ忘れてしまった。
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