第39話 北で

文字数 712文字

 ここは、ホーンフレーダー。大陸の北にある氷原。
 何かが、氷の下からはい出てきた。
 黒い土くれのようなものは、細く上にのびると、腕のような、木のような影を作ったが、すぐに地面にくずれた。まだ、形を保っていられないようだ。
 そして、さっと氷の中に沈むと、死んだ生き物の中をくぐり始めた。
 黒いものは、少しずつ大きくなっていった。
 
 それから、何年かたったろうか。
 黒いものは、ずっと大きく、トゲのようにするどくなって、力をたくわえた。氷の壁にも、邪魔されることもなく、凍った土の中を平気で動き回る。
 灰色の目が、外の世界を見つける。土のそと、上の方へ行くのだ。氷の層は、突き 破られた。
 吹雪の中、黒い塊は、ぐっと固くなる。もう、形がくずれることはない。ぐるぐると棒のようにねじれながら、とがった塔のようになった。まだ、歩くことはできない。
 
 それは、あの魔物だった。黒い血をもったものは、人間によって殺された。しかし、消えてはいなかったのだ。やつは、自らの害意を吸ってふくれあがり、別のものに生まれ変わった。
 それは地表を見渡すと、自分の領土を広げ始めた。
 
 その悪魔は、自らをダール、おのれの領土をダルギスと命名した。
 悪の地、ダルギスは、ホーンフレーダーの中心を侵してすでに存在し、その辺縁から拡がりつつある。
 今、ホーンフレーダーの多くがダールの領土と化していた。
 ダルギス。それは、肉体を失った悪魔・ダールの支配する、死の土地。こうしている間にも、その領土はふえ、悪の力は強くなっていく。ダールの人間への憎しみは深く、時間はたっぷりある。人間たちの住む三つの国も、シイフの森に住む人も、この危険に気づいていなかった。
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