第49話 ソデクの国で

文字数 883文字

 レイシーズは、遅すぎた。もし、彼の報告が初めてだったとしたら。
 彼は、捕われて何日もたっているのを知った。
 ソデクの国では、ダール軍の渡河を防ぐため、すでにニコの国ヘ男たちを派遣していた。
 ガダル川の向こう岸では、ダールと人間との争いが、一進一退を続けていた。
 戦いは組織的になり、人間の側にも、部隊らしきものができてきた。
 ソデク軍を指揮しているのは、ソルフレンとソルフームの、ソル兄弟だ。二人の年齢をたすと、百才近い。ソル兄弟は、男たちに、ダルトー一体に、必ず二人以上で戦うこと、ダルトーは、その体の一部を傷つけられると、すぐ消滅してしまうことを教え、互角の戦いをしていた。
 レイシーズが、こうした話を聞いていると、一人の男が、広場にかけこんで来た。
 ガダル対岸からの使者。それは、フリだった。フリの報告は、衝撃的だった。
「やつらは、武器を持ち始めた」
と、彼は言った。
「ダルトーは、恐ろしい剣を装備している。幅が広く、氷から削り出したみたいに鋭いんだ。それを振り回して、人間をたたっ切りやがる」そして、
「やつらの攻撃は、夜だけ、というのは通用しないぜ。いつでも来る。昼間だって、油断ならないぞ」
「みんな、もっと南へ逃げてくれ。ガダル川は、突破されるかもしれない。おれたちが持ちこたえている今のうちに、逃げるんだ」
 人々はこれを聞き、顔をくもらせた。
 レイシーズは、フリのところへ行った。
「フリ!」
「やあ」
「つかれてるみたいだな」
「こう何度もせめられてはね。けが人もふえてる」
「これから、どうするんだ」
「向こうへ戻って、またやるさ」
「おれも一緒に行くよ」
「いや。レイシーズ。君には、ナクルから伝言がある」
「何だい」
「君は元気そうだ。ここから、アトロス島へ渡ってくれないか。今すぐに」
「島へは、ネムとミスアが行ってるよ」
「ん。ネムさんも努力してるんだろうが、アトロス島の助けの来るのが、遅すぎる。こっちがくずれてからじゃ、だめなんだ。とにかく数がいるんだ。君から、こっちの様子を、ネムたちに伝えてくれ」
「わかった」
 このあと、フリは川へ、レイシーズは海へと別れた。
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