第25話 ルーンの木
文字数 2,264文字
二人は、そわそわしている。
ルーンの木が見えてきた。
「まだもう少し」
「今日中に着けるぞ」
すぐ出かけた。
近づくにつれ、ルーンの木は、その姿を見せつけた。大地にそびえるそれは、とても自然のものとは思えぬほど、すばらしい力にあふれていた。
彼らは、さらに近づき、枝の下へ、そして木の幹へ手をふれた。
彼らが見つけたのだ。
二人は、初めて一休みした。
「おーい」
「何だい、ノール!」
ノールは、一人で木のまわりを歩いていた。彼は、その向こうに何かを見つけた。
「何だよ」
「あれ見てよ。誰か住んでるみたい」
「家にしちゃ、多すぎるな。十や二十どころじゃないぞ」
「行ってみよう。かまわないさ」
「おい、まてよ」
ノールは、かけ出した。ハーレイは、後を追う。
二人は、近づくと、しばらく草むらから様子を見ていた。すると、小人が一人やって来た。
ハーレイとノールは、顔を見合わせた。
「オドロキ。こんな所にもルウィンがいたなんて」
「それも大勢みたいだ」
二人は、うれしくなって、その小人に近づいていった。
「やあ、新しい人。いや、ぼくらの方が、新しい人かな?」
「君たち誰? へんなかっこ」
「そうかい」
と、ハーレイは、自分のマント姿を見た。
「ぼくらは、ルウィンだ。南から来た。きみ、名前は?」
「ネム、だよ。年は七才」
「トシ? ナナサイ? 何のこと?」
「生まれて七年てことじゃないか」
「ウマレ? ナナネン?」
ネム坊やは、首をかしげた。この二人、おかしいんじゃないかと思う。
「ねえ、ネム君。君たち、北のルウィンは、変な言葉を使うな」
「変なのは、君たちだろ。それに、ルウィンなんて知らない」
「とぼけるなって。やだな」
その時、向こうから別の声が聞こえてきた。
「ネム、返事をなさい!」
「こっちだよ、マムゥ」
まただ。マムゥとは何だ、と二人は思った。そして、そこに現れたマムゥを見て、またびっくり。すごく大きい。
「ネム、あまり遠くへ行ってはだめよ。あら、あなたたち、どこの子? マントなんか着ちゃって、すっかり一人前ね」
二人は、どきどき。マムゥは、大きいことは大きいのだが、少しもこわくなく、とてもやさしそうだった。
「仲良く遊ぶのよ」
と言って、マムゥは行ってしまった。
「何だい、あれ……」
「あれはないだろ。ぼくのマムゥだよ。名前は、ムルア」
「ムルア? でも、さっきは、マムゥって……」
もう、どうしようもない。
二人のルウィンは、初めてニンゲンに会ったのだ。
知りたがりのルウィンのこと。二人は、ネム坊やに、たくさんのことを聞いた。
ネムは、生まれた時からルーンの木のまわりに住んでいること。
ネムやその仲間たちは、自分たちのことをニンゲンと呼んでいて、ルウィンとは別の生き物らしいこと。
一番驚いたのは、ネムは小人ではなくて、これから大きくなって、マムゥのような大きな人になるというのだ!
「じゃ、君は、これからムルア・マムゥのようになるわけ?」
「うん。でも男だから、マムゥにはならないけど」
「オトコだから?」
この男女の別は、よくわからない。
「つまり、ユティがオンナで」
「ぼくたちがオトコ、ということか」
「そうらしい」
そのほか、ニンゲンは生まれて死ぬもので、ルウィンの「新しい人」のように、どこからともなく現れたりはしないこと。
ニンゲンは、何百人もいること。
そして、長く生きると、顔かたちが変わり、オトコはジルフィに、オンナはバルフィになるという! 二人は、あいた口がふさがらない。
「ニンゲンってのは、変身するんだねえ」
ハーレイは、まだ信じられなかった。そして二人は、最後に、重大なことを聞き出した。
「なんだって! タタカイ?」
「うん。おとなたちは、「雪山の戦い」って言ってるよ。ここより、もっと北の……」
「たいへんだ。ノール、すぐ帰ろう。ルウィンラーナのみんなに知らせないと!」
「おいハーレイ、ぼくらには関係ない。タタカイなんて、聞いたことない」
「いいか、ノール。知らないのか。殺し合いのことだぞ」
「大昔のことだろ」
「いや。それが今おこってるんだって。それで、ニンゲンは勝ちそうなの?」
ハーレイは、ネムを問いつめた。
ネムは、子どもだから、戦いのことはよく知らない。「君の知ってることでいいんだ」とハーレイはせまった。
すると、こんなことがわかった。
この戦いは、人間同志のものではなく、人間は、魔物のようなものと戦っているという。
もしかしたら、そいつが、あのキーゴンの生き残りじゃないのか、とハーレイは思った。
あたりは、すでに夕方だった。
「おい。ネム。帰るぞ」
「あ、パルゥだ」
うーん、あれがネムのパルゥか。名前は、ニアといったな。二人は、そう思った。
「ネム君。いろいろありがとう」
「ううん。じゃあね」
彼らは、手をふって別れた。
二人のルウィンは、急ぎ、帰りの途についた。
ノールは、ムルアという名のネムのマムゥに、もう一度会いたいなあ、と思っていた。でも、ハーレイがあんまりせくので、しかたがない。
「あのさ。戦いって、そんなに大変なの?」
「ああ。もう何か起こってるかもしれない」
「ルウィンラーナとここじゃ、場所がまるっきりちがうよ」
「そこがあぶないんだ」
「ま、いいけどさ。それよりハーレイ、おまえよく平気だな」
「何が?」
「頭の中がさ。ぼくなんか、ネムの話聞いてて、こんがらがっちゃったよ。それにしても、人間て」
「へんな生き物だね」
ふん。それはそうだろう。
でも、逆に人間から見れば、ルウィンこそ、へんな生き物に見えるものだ。
ルーンの木が見えてきた。
「まだもう少し」
「今日中に着けるぞ」
すぐ出かけた。
近づくにつれ、ルーンの木は、その姿を見せつけた。大地にそびえるそれは、とても自然のものとは思えぬほど、すばらしい力にあふれていた。
彼らは、さらに近づき、枝の下へ、そして木の幹へ手をふれた。
彼らが見つけたのだ。
二人は、初めて一休みした。
「おーい」
「何だい、ノール!」
ノールは、一人で木のまわりを歩いていた。彼は、その向こうに何かを見つけた。
「何だよ」
「あれ見てよ。誰か住んでるみたい」
「家にしちゃ、多すぎるな。十や二十どころじゃないぞ」
「行ってみよう。かまわないさ」
「おい、まてよ」
ノールは、かけ出した。ハーレイは、後を追う。
二人は、近づくと、しばらく草むらから様子を見ていた。すると、小人が一人やって来た。
ハーレイとノールは、顔を見合わせた。
「オドロキ。こんな所にもルウィンがいたなんて」
「それも大勢みたいだ」
二人は、うれしくなって、その小人に近づいていった。
「やあ、新しい人。いや、ぼくらの方が、新しい人かな?」
「君たち誰? へんなかっこ」
「そうかい」
と、ハーレイは、自分のマント姿を見た。
「ぼくらは、ルウィンだ。南から来た。きみ、名前は?」
「ネム、だよ。年は七才」
「トシ? ナナサイ? 何のこと?」
「生まれて七年てことじゃないか」
「ウマレ? ナナネン?」
ネム坊やは、首をかしげた。この二人、おかしいんじゃないかと思う。
「ねえ、ネム君。君たち、北のルウィンは、変な言葉を使うな」
「変なのは、君たちだろ。それに、ルウィンなんて知らない」
「とぼけるなって。やだな」
その時、向こうから別の声が聞こえてきた。
「ネム、返事をなさい!」
「こっちだよ、マムゥ」
まただ。マムゥとは何だ、と二人は思った。そして、そこに現れたマムゥを見て、またびっくり。すごく大きい。
「ネム、あまり遠くへ行ってはだめよ。あら、あなたたち、どこの子? マントなんか着ちゃって、すっかり一人前ね」
二人は、どきどき。マムゥは、大きいことは大きいのだが、少しもこわくなく、とてもやさしそうだった。
「仲良く遊ぶのよ」
と言って、マムゥは行ってしまった。
「何だい、あれ……」
「あれはないだろ。ぼくのマムゥだよ。名前は、ムルア」
「ムルア? でも、さっきは、マムゥって……」
もう、どうしようもない。
二人のルウィンは、初めてニンゲンに会ったのだ。
知りたがりのルウィンのこと。二人は、ネム坊やに、たくさんのことを聞いた。
ネムは、生まれた時からルーンの木のまわりに住んでいること。
ネムやその仲間たちは、自分たちのことをニンゲンと呼んでいて、ルウィンとは別の生き物らしいこと。
一番驚いたのは、ネムは小人ではなくて、これから大きくなって、マムゥのような大きな人になるというのだ!
「じゃ、君は、これからムルア・マムゥのようになるわけ?」
「うん。でも男だから、マムゥにはならないけど」
「オトコだから?」
この男女の別は、よくわからない。
「つまり、ユティがオンナで」
「ぼくたちがオトコ、ということか」
「そうらしい」
そのほか、ニンゲンは生まれて死ぬもので、ルウィンの「新しい人」のように、どこからともなく現れたりはしないこと。
ニンゲンは、何百人もいること。
そして、長く生きると、顔かたちが変わり、オトコはジルフィに、オンナはバルフィになるという! 二人は、あいた口がふさがらない。
「ニンゲンってのは、変身するんだねえ」
ハーレイは、まだ信じられなかった。そして二人は、最後に、重大なことを聞き出した。
「なんだって! タタカイ?」
「うん。おとなたちは、「雪山の戦い」って言ってるよ。ここより、もっと北の……」
「たいへんだ。ノール、すぐ帰ろう。ルウィンラーナのみんなに知らせないと!」
「おいハーレイ、ぼくらには関係ない。タタカイなんて、聞いたことない」
「いいか、ノール。知らないのか。殺し合いのことだぞ」
「大昔のことだろ」
「いや。それが今おこってるんだって。それで、ニンゲンは勝ちそうなの?」
ハーレイは、ネムを問いつめた。
ネムは、子どもだから、戦いのことはよく知らない。「君の知ってることでいいんだ」とハーレイはせまった。
すると、こんなことがわかった。
この戦いは、人間同志のものではなく、人間は、魔物のようなものと戦っているという。
もしかしたら、そいつが、あのキーゴンの生き残りじゃないのか、とハーレイは思った。
あたりは、すでに夕方だった。
「おい。ネム。帰るぞ」
「あ、パルゥだ」
うーん、あれがネムのパルゥか。名前は、ニアといったな。二人は、そう思った。
「ネム君。いろいろありがとう」
「ううん。じゃあね」
彼らは、手をふって別れた。
二人のルウィンは、急ぎ、帰りの途についた。
ノールは、ムルアという名のネムのマムゥに、もう一度会いたいなあ、と思っていた。でも、ハーレイがあんまりせくので、しかたがない。
「あのさ。戦いって、そんなに大変なの?」
「ああ。もう何か起こってるかもしれない」
「ルウィンラーナとここじゃ、場所がまるっきりちがうよ」
「そこがあぶないんだ」
「ま、いいけどさ。それよりハーレイ、おまえよく平気だな」
「何が?」
「頭の中がさ。ぼくなんか、ネムの話聞いてて、こんがらがっちゃったよ。それにしても、人間て」
「へんな生き物だね」
ふん。それはそうだろう。
でも、逆に人間から見れば、ルウィンこそ、へんな生き物に見えるものだ。