第33話 忘れ物

文字数 1,260文字

 ルウィンラーナには、もうルウィンたちはいない。
 寒さで住みにくくなったラーナを捨て、西のハラルドの塔を目指したのだが、まだ行き着いていない。それどころか、もうずっと進んでいない。
 ルウィンたちは、今いる所が気に入っていた。この、少し西へ来た所で、あたたかな陽気のせいもあり、出発するのをさぼっていた。みんな、前と同じように、楽しく暮らしていた。遊んだり、おしゃべりしたり。
 アノネは、ここを、新しいルウィンラーナ、つまり「ルウィンラン」と呼ぼう、と言い出して、みんな賛成した。
 この日。
 ハーレイは、みんなとマリトリス・ゲームをしていた。
「どうも、今日はついてないな。二回もまけちゃった」
「何言ってるの。ハーレイは、いつも弱いぜ」
「ふん。まだまだ。次は勝つぞ」
 でも、三回目も、まけてしまった。
 ハーレイは、ひやかされながら、そこを離れた。
 一人でぶらぶらしていると、ふと気づいたことがあった。
——手紙は? あの謎の手紙は、どうしたろう? ハーレイは、みんなに聞いてみたが、誰も知らない。
「ユティが、持ってるんじゃない?」と、リークルが言った。そのユティも、「そういえば……」と、不思議そうな顔だ。
「持って来てないんだ。図書館に置いたきり。大切なものなのに、どうして、今まで気づかなかったんだろう」
 ハーレイは、久しぶりに、ほんとに久しぶりに、あわてた。
 
「マントはどこだ」
「いそがしいな、ハーレイ。これから取りに行くんじゃないだろうな」
「いくいく。ぐずぐずしてられないよ」
「ははは。君らしいさ。あ、そうだ。あれ持ってけよ。食べ物の出るバルク」
「ああ、そうする。ありがとう、ボージャー」
 ハーレイが、あまり急ぐので、ルウィンたちも落ち着かない。みんなが、見送りに来てくれた。
「きっともどれよ」
「うん」
「まよわないように」
「うん。ぼくは、誰かさんみたいに、方向ちがいじゃないさ」
「え。誰が、方向ちがいですって?」
「誰も、君だなんて言ってないよ、ユティ。そうだろ、ハーレイ?」
 ハーレイは、笑いをこらえている。
「もうやめて。テッダ!」
 みんな、くすくすしていた。ユティも、自分で笑ってしまった。
 そのわけは、こうだ。
 一度、ユティが魔法で家を動かす時に、まるで違う方向に飛ばしてしまった。それ以来、テッダは、彼女を「方向ちがい」と、からかっている。
「ルウィンラーナがどうなってるか、見てくるよ」と、ハーレイが言うと、アノネが近づいてきて、
——じゃ、もしおいしい飲み物が残ってたらさ、それ持ってきてくれない?
と、こっそり話をした。
「アノネ。いいかげんにしなさいよ。ちゃんと聞こえてんだから」
 ユティに気づかれ、アノネは肩をすくめた。
 ハーレイはさよならを言い、夕やみをついて出発した。
 
「夜空って、いいな」
 旅の途中、ハーレイは、大地に寝ころがって、空を見つめた。今夜は、すてきな星空だった。ハーレイは、白い星にまじって、赤い星や、青い星もあるのを知っていた。
「いつか、星へ行ける日もくるのかな」
 やがて、彼は眠りにおちた。
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