第24話 風
文字数 1,331文字
こうして何日かたち、二人はさらに旅を進めていた。
そんな日の夜、嵐がやってきた。
二人は、びしょぬれになって、やっと岩の洞穴を見つけ、逃げ込んだ。
「ひどいな。寒くてふるえちゃうよ」
「しかたないさ」
何とかして暖まりたかったが、燃やすものがない。
風は強まってくる。
二人は、このまま雨がやまないんじゃないかと、不安だった。
やがて、ノールは眠った。
ハーレイは、休む前に、ちょっと外の様子が見たくなって、洞穴の入口から首を出した。空から、一面に光が放射され、音が地を揺さぶった。
ハーレイは、その雷光の中に、大きな木を見たように思った。
ノールが、驚いて目をさました。
「何だ。おい、ハーレイ。奥へ入ってた方がいいぜ」
「うん」
「雷が近くに落ちたみたい」
「ああ」
ハーレイは、強い光で目の前が真っ暗になり、何も見えない。目をやられたのかと思ったが、少しずつ見えるようになってきた。
彼は奥に行き、丸くなって眠った。
朝だ。
晴れていた。
「やあ、きのうはひどかったな」
「ほんと。服が、思ったより早く乾いてよかった」
二人は食事をとると、歩き出した。
しばらく進むと、道がうねって上りになり、ずっと先まで続いているようだ。
「山かな」ノールが言った。
「ちがう。これが、オビ高原だと思う」
彼らは進むのに、ちょっと苦労した。
さらに何日かが過ぎ、道はだんだん下りになってきた。
「この高原をすぎれば、ルーンの木は近いはずなんだ」
道を下り終えたころ、あたりは霧に閉ざされた。
「今日は、もう進めないな」
「どこか休む所をさがそう」
二人は、丘の陰に休んだ。
ハーレイが目をこらすと、かなり遠くの方に、ぼんやりと大きなものが見えた。
「ノール、あれ見えるかい」
「見えるよ」
「何だろう」
「ハラルドの塔じゃないだろうな」
「まさか。ぼくら北へ来たんだ」
「もしかすると」
「ルーンの木かも」
「なんか寒くないかい」
「ちょっとね」
二人は、たき火をした。
これまでのことや、ルウィンラーナに残してきたみんなのことを話していると、そこへ夜風がやってきた。
——こんばんは。
「やあ、風さんだね。ずいぶん、ぼくたちのとこへ来なかったじゃないか」
——いろいろ回るところがあってね。ところで、お二人さん、今度の旅はどうです?
「楽しいよ。まずまずってとこ」
——あの、おたずねしていいですか。
「うん」
——第一の旅行者は、どっちへ行ったんでしたっけ。
「東だよ」
——何を見つけたでしょう。
「手紙さ」
——第二の旅行者は。
「西へ行って」
「ハラルドの塔を見つけた」
——あなた方は?
「なにも」
「いやあ、きれいな湖を見つけたよ」
——ふふふ。湖は、見つけたうちに入りませんよ。もともとあったんですから。
「それなら、ハラルドの塔だって、もともとあったんじゃ」
——いいえ。ハラルドの塔は、最初からは、ありませんでした。
「そう」
——それじゃあ、また。どうぞ、ご無事で。
風は、ぴゅうと行ってしまった。
「なんだい」
「へんなやつ」
でも、このあと、ハーレイはちょっと考えた。
風の言うとおり。たしかに、今度はなにも見つけてない。
外へ出て、なにかを見つけるのが旅行者。そうだとしたら、ぼくらはまだ旅行者じゃない。そう呼ばれたいけど。
そんな日の夜、嵐がやってきた。
二人は、びしょぬれになって、やっと岩の洞穴を見つけ、逃げ込んだ。
「ひどいな。寒くてふるえちゃうよ」
「しかたないさ」
何とかして暖まりたかったが、燃やすものがない。
風は強まってくる。
二人は、このまま雨がやまないんじゃないかと、不安だった。
やがて、ノールは眠った。
ハーレイは、休む前に、ちょっと外の様子が見たくなって、洞穴の入口から首を出した。空から、一面に光が放射され、音が地を揺さぶった。
ハーレイは、その雷光の中に、大きな木を見たように思った。
ノールが、驚いて目をさました。
「何だ。おい、ハーレイ。奥へ入ってた方がいいぜ」
「うん」
「雷が近くに落ちたみたい」
「ああ」
ハーレイは、強い光で目の前が真っ暗になり、何も見えない。目をやられたのかと思ったが、少しずつ見えるようになってきた。
彼は奥に行き、丸くなって眠った。
朝だ。
晴れていた。
「やあ、きのうはひどかったな」
「ほんと。服が、思ったより早く乾いてよかった」
二人は食事をとると、歩き出した。
しばらく進むと、道がうねって上りになり、ずっと先まで続いているようだ。
「山かな」ノールが言った。
「ちがう。これが、オビ高原だと思う」
彼らは進むのに、ちょっと苦労した。
さらに何日かが過ぎ、道はだんだん下りになってきた。
「この高原をすぎれば、ルーンの木は近いはずなんだ」
道を下り終えたころ、あたりは霧に閉ざされた。
「今日は、もう進めないな」
「どこか休む所をさがそう」
二人は、丘の陰に休んだ。
ハーレイが目をこらすと、かなり遠くの方に、ぼんやりと大きなものが見えた。
「ノール、あれ見えるかい」
「見えるよ」
「何だろう」
「ハラルドの塔じゃないだろうな」
「まさか。ぼくら北へ来たんだ」
「もしかすると」
「ルーンの木かも」
「なんか寒くないかい」
「ちょっとね」
二人は、たき火をした。
これまでのことや、ルウィンラーナに残してきたみんなのことを話していると、そこへ夜風がやってきた。
——こんばんは。
「やあ、風さんだね。ずいぶん、ぼくたちのとこへ来なかったじゃないか」
——いろいろ回るところがあってね。ところで、お二人さん、今度の旅はどうです?
「楽しいよ。まずまずってとこ」
——あの、おたずねしていいですか。
「うん」
——第一の旅行者は、どっちへ行ったんでしたっけ。
「東だよ」
——何を見つけたでしょう。
「手紙さ」
——第二の旅行者は。
「西へ行って」
「ハラルドの塔を見つけた」
——あなた方は?
「なにも」
「いやあ、きれいな湖を見つけたよ」
——ふふふ。湖は、見つけたうちに入りませんよ。もともとあったんですから。
「それなら、ハラルドの塔だって、もともとあったんじゃ」
——いいえ。ハラルドの塔は、最初からは、ありませんでした。
「そう」
——それじゃあ、また。どうぞ、ご無事で。
風は、ぴゅうと行ってしまった。
「なんだい」
「へんなやつ」
でも、このあと、ハーレイはちょっと考えた。
風の言うとおり。たしかに、今度はなにも見つけてない。
外へ出て、なにかを見つけるのが旅行者。そうだとしたら、ぼくらはまだ旅行者じゃない。そう呼ばれたいけど。