第52話 ネムの出発

文字数 1,255文字

 アトロス島は、出発の準備で、活気づいていた。
 武器、食料、薬、そして船。別れをかわす姿も、みられる。
「ま、軽くやっつけてくるさ」
「元気でもどっておいで」
「死んだら、もどれないな」
「そんなこと言うんじゃないよ。まったく、この子は!」
 レイシーズは、そんなやりとりを聞きながら、通りを歩いて、王宮のほうへ向かう。
「ネム!」
「呼んだか。誰だい?」
「ネム、こっちです」
 人ごみをかき分けてあらわれたのは、汚れた服を着た男だった。
「レイシーズ! どうしてここへ?」
 レイシーズは、ネムに、事の次第を話した。自分は、ソデクの国へ向かったが、ダルトーに捕われたこと。ソデクに着いた時は、すでにソデクの部隊が、ガダル川を渡っていたこと。
「で、状況は」
「今は、もってます。しかし、フリは、ガダル川は突破されるかもしれないと。それで、島の部隊に早く来てもらうために、おれをよこしたのです」
「ダルトーのやつらは?」
「武器を持ち始めました。氷のような剣です。人間の部隊は、けが人も増えて、苦しいのです」
「そうか。だが、みてろよ。こっちは、今夜、出発だ」
「むりです」
「どうして?」
「今夜おそく、嵐がくると。船長が」
「まさか」
 
 夕方。波の様子がおかしい、という報告があった。
 雲も出て来たようだ。
 ネムは、主な者を集めて、意見を聞いた。
「行くべきだ」
「賛成。大陸の仲間は、あぶないそうだ。早く助けてやろうじゃないか」
「でも、嵐はくるんだぞ」
「そうかな。今は、何ともないぜ」
 ネムは、決定した。
「行けるなら、今夜行きたい。しかし、船長は、夜の嵐を確実と言い切っている。大事な部隊だ。向こうへ行くまで、危険はおかせない。出発は、明日の朝とする」
 この決定のあと、ネムの運命に変化が起こる。
 ネムは、ミスアとレイシーズを呼び、こんなことを伝えた。
「わたしは、今夜、出発する」
 二人は、あわてた。
「でも」
「嵐は、夜おそく、といったな。今から出れば」
「むちゃです」
「ミスア、君が代わりに残れ。レイシーズ、島へ来たばかりですまないが、わたしと来てくれ。君の方が、向こうの様子にくわしいだろ」
 それだけ言うと、ネムは、王宮の方へ行ってしまった。
 ミスアは、レイシーズに言った。
「行けるか。レイシーズ」
「ああ。それはいいけど」
「ネムが早く帰れば、大陸の連中は元気づくだろうし、島の救援も知らせられる」
「やるしかないね」
 ミスアはうなずいて、レイシーズの肩をたたいた。
 
 ネムが、王宮から帰ってきた。
「話はついた。アトロス島の部隊は、明日の朝、来てくれる。行こう、レイシーズ。船も用意できてる」
 三人は海へ走り、二人が船へ乗った。
 船の中から、レイシーズが言った。
「見送りは、君一人かい?」
「そう言うなって。それより、島の人をつけてもらって、もっと大きな船で行ったら?」
「部隊を乗せるのでいっぱいだよ。こっちの気まぐれで、一艘(そう)もらうのはできないさ」
 三人は、手を握った。
 こうして、ネムとレイシーズは、海へ出た。
 ミスアは、二人の無事を願った。
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