第44話 森からの人

文字数 1,385文字

 夜。
 襲撃を逃れた人々の避難地。
 ニコの国から逃げてきた人々は、ここからソデクの国へ行こうとしていた。
 見張りをしていたフリは、怪しい影を見た。
「誰だ!」
 フリは、剣をぬいた。
「おいおい、そりゃないぜ!」
「ん? 人間か。どこの国の者だ」
「国? ちがうな。森から来たんだ、おれは」
「森からだって?じゃ、ナクルに知らせなきゃ。ついてきな」
 フリは、森からの人をつれて、ナクルのところへ行った。
 森の人が、話しかけてきた。
「あのさ、あんた名前は?」
「おれは、フリだ。ニコの国で生まれた。お前、悪いやつじゃなさそうだな」
「当たり前だろ。おれのこと、キャサって呼んでくれよ」
「ふん。でも、何しに来たんだ?」
「君たち、ダールてのに襲われたんだろ。話に聞いてね。役に立たないかと思ってさ」と、森の人は言った。
 フリが、森の人を見たのは、これが初めてだった。
「ついたぞ。ナクルさん、ちょっと変わったことが」
「フリ。何かあったのか」
「こいつ、一人で森から来たと言ってます。名前は、キャサと」
「あんたが、ナクル? ここのまとめ役かい?」
「そうだ。ほんとに、森から?」
「ええ」
 彼らは、すぐうちとけて、いろいろな情報が交換された。
 ナクルは、キャサに、黒の戦士ダルトーについて説明した。
「わかった。で、ダルトーと戦ったやついるかい?」
「いるよ。フリ、ワーキを呼んできてくれ」
 ワーキが、やって来た。彼が、最初にダルトーを倒したのだ。
 ワーキが、話し出した。
「いいかい。ダルトーのやつらは、どうもふつうの生き物じゃないな。にせものの体で、ダールにあやつられてるんだろう。だから、体のどこかを傷つけられると、すぐばらばらになって、くずれちまう。武器も持ってない。けど、甘く見ると命取りだぜ。あの爪で、もう何人もやられてる」
「よくわかった。ありがとう」
 
 次の夜。避難地の人々が、騒ぎ出した。
 一体のダルトーが、ここへ近づいて来て、まわりをうろついている。
「どうして一体だけなんだ」
「襲ってこないぜ」
 子どもたちは、ダルトーの赤くにごった目を見て、こわがった。
 ナクルが言った。
「あいつは、ダールの命令の届かない所へ出ちまったんだろう。自分だけでは、何もできないんだ」
 害がないとはいえ、不安が高まった。
「おれたちを見張ってるのかな」
「おとりじゃないのか」
「おれに始末させてくれ」と、森から来たキャサが言った。
「素手でやるのかい? 近づくと、危ないぜ」
「いや、ここから出る必要はないさ」
「どうして」
「これを使うのさ」
 キャサは、弓を取り出した。そして、矢をつがえながら、
「どこをねらう?」
と聞いた。
「頭だ」
「頭のどこ?」
「目だ」
「どっちの目?」
 え、と人々は思った。ここから、そんなにうまくねらえるのか? しかも、夜に?
「じゃ、右だ」
「よし」
 放たれた矢は、まっすぐ右目へ。ダルトーは、その矢を受け、一瞬前かがみになったかと思うと、ばらばらになって消えていった。
 人々は、驚いた。
「いい腕だな」
「そうかい」
「君の弓もいい」
「いや。おれたち森の人間は、これくらいしかできない」
「君のようなやつが、あと百人もいれば、こっちもかなり強くなるな。森にいるのは、君一人じゃないんだろ?」
「ああ。もっといるよ。そのうち、リルアが連れてくるだろう」
「リルア?」
「森の族長さ。たいした女だぜ」と、キャサは言った。
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