第22話

文字数 1,468文字


「地震だろ」

 一瞬ばかりの縦揺れ。
アレが始まりであったと思い出せば、一同は互いに顔を見合わせる。

「た、高野クンが言ってた瞬間移動!
あの時、次元の歪みが起こって、ソレでコッチの世界にテレポートしちゃったんじゃないかな!?

 亜希子の推理に一同は揃って頷く。

 ここを異次元空間と仮定するからこその発想だ。
これ迄は暗闇校舎の中を瞬間移動させられる切欠としか捉えていなかった地震現象だが、あの1回目を入り口だと捉えれば、推理は進展する。

「って事は……その内、元の世界に戻れるって事?」

 登美が首を傾げるも、待てば海路の日より有りでは心許ない。
義也は舌打ちする。

「待って、ここを脱出できたとしてだ、
次には又、ここに飛ばされたらシャレにならねぇぞ」

 入り口と出口が仮定できたとして、無意識に行き来している状態に問題がある。
現実世界に戻れたなら、2度とこの暗闇校舎に踏み込まずに済む方法も知っておきたい。弓絵は彗の手を握り、目を閉じて考え込む。

(彗君、力を貸して……)

「どうして……これまで こんな、1度だって起こらなかった……
それが、どうして今日にはこんな目に遭わなくちゃならなかったんだろう……?」

(何か、切欠があったんだろうか?
こうなってしまう原因、いつもとは違う何か……)

 弓絵達は卒業制作の為に、少しばかり居残りをしていただけの事。
それも今日に限っての事では無い。ここ数日、そんな事が続いている。
陽が傾けば速やかに下校し、帰り渋る事も無い。
極めて真面目な生活態度と褒めて言っても過ぎる事は無いだろう。

(偶然か……
ソレとも、私達が知らず知らずの内に入り口を呼び込む切欠を作ったのか……)

 卒業制作に弓絵がデザインしたミニタイルアートは、青空に羽ばたく大きな鳥と輝く太陽だった。そして、夕焼けの空。16時。
夫々が様々な出来事を回想している中、登美が声を上げる。

「――ぁ、」

 何か思い当たったのか、一同が振り向くと登美は表情を強張らせて頭を振る。

「ひ、独り言だってば、」
「ヤダもぉ、驚かさないでよ、登美ぃ……」

 亜希子が小さく手を上げる。

「あのぉ……実は私ぃ、怖いと そのぉ……トイレぇ行きたくなるンだけどぉ……」

 こんな時とは言え、生理現象なのだから仕方が無い。
ずっと我慢していたのだろう亜希子に、登美と理恵は顔を見合わせる。
言われてみれば行きたくなるから不思議だ。

「登美、行っとく?」
「ぅ、うん、一応……弓絵チャンは?」
「私は大丈夫。義也は?」
「俺もイイ」

 幸い、トイレは保健室の隣。
何かあれば直ぐに駆け着けられる距離にあるが、理恵は念には念をと言う様に、棚の中から荷造り用のビニール紐を取り出す。

「一応さ、個室に入るんだし……
手ぇ繋いでおけないワケだから、これで体を繋いでおかない?
何かあったら、これ引っ張って助け呼べるし。
でぇ……西原クンがさ、先、持っててくれると助かるんだけど?」

 いつ瞬間移動の時が来るか分からなければ、いつ幽霊と思しき存在に襲われるかも分からない。女子としては、男子である義也には頼り甲斐を感じている。
この提案に賛同する登美・亜希子の目が向けば、義也は一息を付いて頷く。

「解かった。俺がイキナシ女子便に乗り込んでもチカン呼ばわりすンなよ?」
「ププッ、ハハハ! ウケる!」
「フフフ、義也クンたらぁ……」
「大丈夫だよ、分かってるってぇ。そん時は なに見られても許すよ。ハハハ!」

 (ようや)く、いつも通りの会話。
亜希子・登美・理恵の順にビニール紐を腰に結び付け、その先端を義也が握る。
準備万端 整え、足音を殺して隣のトイレへ。

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