第41話

文字数 994文字

「彗君、彗君は戻れるの……?」
「僕は、」
「体を取り戻せば、戻れるよね?」
「……」

 黒い影が引き摺っていた彗の体は[[rb:蛻 > もぬけ]]の殻。
だからこそ、中身である彗を探しているのだ。
体さえ取り戻せば自動的に一体化できるのでは? 都合の良い展開を妄想するも、彗は頭を振る。

「僕、死んだんだ……」
「そんなの信じないっ、、だってココに、」
「弓絵、聞いて。僕も信じたくないけど……やっぱり僕は死んでいるんだ。
1度目の瞬間移動で僕の心臓は次元を超える震動に耐えられなかった……
ここに着いた時点で、死んでいたんだ」
「!」

 暗闇校舎は生きた7人を引き摺り込んだのでは無い。
たった1人、彗だけが移動完了前にショック死していたのだ。

「どうして僕の体と魂が離れてしまったのかは分からない。
でも、きっと、こうゆう空間だからこそ、今の僕が存在していられるんだと思う」
「ヤダ、そんな事 言わないで……触れられるのに、触れられるのにっ」

 弓絵は彗の手を握る。
確かに、体温は恐ろしく低い。
然し、現に彗は肉体と同様の形を保ち、会話も出来る。
コレが魂だけの存在とするには 余りにも浮世離れしている。

「この空間は魂を取り込む。体は必要ないんだろう。
だから、取り込まれずにいる僕をアイツは探してる」
「捕まったら……」
「皆と同じように取り込まれるんだろうね」
「そ、そんなの、嫌ッ、」

 弓絵は両手で顔を覆い、体を震わせる。

(奪われてゆく……
何もかもを失って、そうして戻れたとして、私には何が残るの!?

 絶望的だ。
元の世界に戻れたとしても、失ったものの大きさに耐えられる気がしない。

 彗は そっと弓絵の頭を撫でる。

「願いが叶った」
「ぇ?」

 弓絵は首を傾げて顔を上げる。
相変わらず泣きじゃくった その顔を見て、彗は苦笑するのだ。

「ずっと、義也のように、弓絵の頭を撫でたかったんだ」

 暗闇校舎に落とされ、こんな事でも無ければ叶わなかった願いなのだから皮肉な話だ。

「僕も弓絵と仲良くなりたくて……
でも、僕は臆病者だから、どうしても話しかけられなくて、
だから、義也がキミの手を引いてやって来た時は本当に嬉しかった。
やっと、友達になれるって」
「彗君……」

 幼少期、引っ込み思案な弓絵がスケッチブックを持って、義也の背に隠れる様に現れた あの日の事を、彗も鮮明に覚えている。

「私も、彗君と友達になれて、夢みたいに嬉しかったよ、」


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