第33話

文字数 1,300文字

 弓絵と登美は南階段から1階へ降り、保健室へ続く廊下の先を覗き見る。
静かだ。弓絵は登美の手を引いて足を進める。

「待って、弓絵チャンっ、何かいる……」

 登美は体を強張らせ、指を指す。
廊下に何かが転がっている様に見えるが、それが何なのかは この暗闇では目視の距離に無い。
もっと近づかなくては確認する事は出来ないだろう。
弓絵は唾を飲む。

「だ、大丈夫……動いてはいない、多分……」
「動いたら どぉすんのッ?」
「そ、それは嫌かも……」

 今一度2階へ戻り、中央階段経由で迂回した方が良いだろうか、
然し、引き返した所で安全の確約は無い。
弓絵は長息を吐き、登美の手を引く。

「戻っても、このまま進んでも、危険には変わらない……
私が先を歩くから、何かあったら直ぐに走って」
「ぅぅ、……ゎ、分かった、」

 廊下の壁に背を掏りつけ、息を殺して足を運ばせる。
登美は顔を反らすも、弓絵は視界の端にソレを収め、確認する。

「! ――登美チャン、目 閉じてて」
「な、何ッ?」
「……ぁ、亜希子チャンだから、見ないで上げて、」
「ッ、」

 亜希子の死体は職員室の手前に放られる様に移動させられた様だ。
余りの無残さに、亜希子が気の毒でならない。
2人は込み上げる涙を堪え、亜希子をかわして進む。

(ごめんね、亜希子チャン……理恵チャンも、俊典君も……
でも、どうか お願い、私達が無事にココを出られるように見守っていて……)

 心中 願いながら、やっとの思いで保健室に辿り着く。

(開けたままにしておいた筈のドアが閉まってる……2人が戻って来てるのかも!)

「義也っ、彗君っ、」

 ドアを開けると そこには、椅子から腰を上げる義也の姿。
弓絵は登美の手を引いて駆け出し、そのまま義也の懐に飛び込む。

「義也っ、」
「弓絵、無事で良かった……」
「ぅん、本当に良かった、ココに戻れば きっと会えるって思ってた、」
「ああ、俺も。久松も一緒で良かった」
「ぅ、うん……」

 登美は申し訳なさげに頷き、そのまま顔を伏せる。
弓絵は義也を見上げ、声を曇らせる。

「義也、理恵チャンが……」
「ぁぁ。3階で見かけた。……死んでた」
「! ……ごめんなさい、私、一緒にいたのに……」
「やめろよ……俺も彗を連れて来られなかった」
「「!!」」

 弓絵は息を飲み、登美は顔を上げる。
ベッドを見やれば中は空っぽ。彗の姿は何処にも無い。
弓絵と登美が最悪の状況を想像すると、義也は苦笑を浮かべる。

「ワケあって、別行動 取ってる」
「生きてるのっ?」
「ああ。アイツは大丈夫だ。心配ねぇよ。ここで合流する約束になってる」
「良かったぁ……」
「体調は大丈夫なの? 彗君、あんなに苦しんでいたけど……」
「休んだから発作も治まったって――」

 彗は黒い影を3人に近づかせない為の足止めに命をかけている。
そんな闇雲な事を言っては、それこそ弓絵を発狂させてしまうだろう。

「それより、彗から お前らに伝言を預かってんだ。俺はソレを伝えなきゃならねぇ」

 義也は保健室のドアを閉めると直ぐに2人の元へ戻り、弓絵の手を握って、いつ来るか分からない瞬間移動に備える。

「ここのトリックが分かったぜ」

「「え!?」」

 2人は揃って義也を見やる。

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