第28話

文字数 1,007文字

「理恵チャン!!
「何、何、何で、いやぁあぁッッ、ッ、痛ッ、痛い、痛いぃいぃいぃいぃ!!
「待って! 理恵チャンを連れて行かないで!」

 幾人もの黒い手が理恵の両足に巻き着き、南校舎へ向う廊下の先へと連れ去ろうとする。
登美が放心しきって動けずにいるも、弓絵は立ち上がって全力疾走。
然し、理恵が引き摺られるスピードに追い着けない。

(これ以上、殺されてたまるか!!

 弓絵は意を決し、ダイブ。
伸ばされる理恵の手に飛び付くと、決して離すまいと力強く握り込む。
そして、廊下の柱に もう一方の手を引っ掛ける。


ガッ、、グググググッ……


「ぅ、あぁッ、」
「離さないで、弓絵チャン! お願い、離さないでぇ!!

 柱に掴まり、辛うじて理恵を引き止めるも、黒い手の力が緩まる事はない。
弓絵の腕は捥げそうな程に引っ張られる。

「ッッ……絶対、離さないッッ、」

 弓絵が彗に助けられた時は黒い手も潔く引き下がったが、今回は諦めが悪く しつこい。
周囲は2人を嘲ける哄笑に包まれる。


ギャハハハハハハハハ!!
ヒィーーーャハハハハ!!
ハハハ!! アハハハハハ!!


「どうして こんな事するの!?
私達はただ、当たり前の日常があれば良かったのに!
笑って、喧嘩して、仲直りして……こんな事にさえならなければ、いつだって私達は手を繋いで、」


―― ダン!!


 弓絵と理恵の繋いだ手が、見えない足によって踏み付けられる。


「ぁ……」


 その瞬間に2人の手は解け、理恵は暗闇の先へと引き摺られて行く。


バタバタバタバタバタバタバタ!!
キャハハハハハハハハハ!!

バタバタバタバタバタバタバタ!!
ギャハハハハハハハハハ!!


 遠ざかる理恵の目には、身動き取れずに手を伸ばすばかりの弓絵の姿が焼きついた事だろう。
自分を助けようとした弓絵に対して、感謝も無ければ恨みも沸かない。
ただただ容赦なく引き摺られ、顔の皮膚すらも摩擦でズリ向ける痛みの中、左右の壁に体を打ちつけられ、骨の折れる鈍い音を何度も聞きながら、中々 死ねずにいる苦痛に涙を滲ませるだけだ。
俊典も亜希子も、こうしてジワジワと痛めつけられて死んでいったに違いない。
そして、理恵も間も無く、あの無残な屍と化す。

 意識が途切れるだろう寸暇、理恵は何かを引き摺る黒い影と擦れ違う。

「 ぇ …… ? 」

 やはり、見間違いでは無かった。
黒い影は制服を引き摺っている。
ソレを目に、息を飲む様に声を漏らす。


「――ぁ、」


 コレが、理恵の最期。


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