第39話

文字数 591文字

「死んでいた……のね……?」

 死んでいた。彗は とっくに死んでいたのだ。
そうして体だけは引き摺られ続け、中身は弓絵達の元に現れていた。

「弓絵、ごめん……」
「彗君、どうして……」

 弓絵が問いかけると同時、黒い影の腕が上がる。


《ナカミぃいぃいいい……》


「弓絵、逃げて!!
!!

 黒い影は弓絵の直線上にいる彗を目掛けて手を伸ばす。

「弓絵!!



――ドッ……



「ギリ、……セーフ、、」
「義、也……」

 間一髪、弓絵の前に駆け込んだのは義也だ。
然し、人を助けるにはソレなりの代価が必要になるのだろう。
義也の腹には黒い影の手が貫通し、湧き上がる泉の如く、ドボドボと血が溢れ出す。

「義也ぁあぁあぁ!!

 弓絵の悲鳴に義也は眉を顰めて苦笑し、腹部から逆流する大量の血を吐く。
ビシャリ! と血の塊が落ちれば、廊下は嚥下する様に吸収していく。
黒い影の手が腹から抜き取られ、義也は そのまま廊下に倒れる。

「義也! 義也! いやぁあッ、義也ぁ!!

 弓絵は穴が開いた義也の腹を両手で押さえ、出血を止めようとする。

「早く、逃げ、ろ、ょ……」
「駄目ぇ!! 一緒に、一緒に帰るの!!
「彗、弓絵を……」
「義也っ、」

 彗は駆け寄り、弓絵と共に義也を担ぎ上げる。

《ナカミぃ……》

 黒い影が欲しいのは、彗の中身。
彗の体を引き摺りながら3人の後を追う。
然し、存外 鈍足か、姿さえ隠してしまえれば追い着かれる事は無いだろう。

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