第26話
文字数 1,123文字
「――亜希子? イイ? 見ちゃうよ? 見ちゃうからねっ?」
理恵は声をかけながら、反応の無い亜希子の個室にライトを向ける。
……
……
状態がいまいち把握できないが、コレは亜希子なのだろうか?
便座に腰をかけ、トイレタンクに背を凭れて足を投げ出している。
そして、胸が押し潰されたアンバランスさに頭と肩がグッタリと前のめりに垂れ、個室内は夥しい血で赤く染まっている。
「「ヒッ、、」」
2人は同時に息を飲み、その場に硬直。
目の前の現実を否定する為、パクパクと口を動かす。
「亜、希子……? 亜希子、なの?
ぇ? 死、死んで、る……? ウソでしょ……? 何で……?」
「ひ、紐、紐……さっき、引っ張られてた……
私、待っててって催促してるって思って、」
今更だが、亜希子が“待っててね!”と2度目に嘆願した その直ぐ後、ビニール紐が仕切りに引かれていたのを登美は確認している。
然し、理恵との口論に気を取られ、亜希子のそれをシグナルとは判断しなかったのだ。敵がいるなら、正面からやって来ると思い込んでいた。
まさか こんな近くで人が殺されるとは思いもしない。
足元を見れば、タイルの目を縫う様に亜希子の血が伝っている。
然し、ソレも少しずつ薄れて行く。
ゴクリゴクリと嚥下する様に、床が亜希子の血を吸い取っていく様だ。
ギャハハハハハハ!!
アハハハハハハハ!!
キャハハ!! キャハハハ!!
トイレの中に響き渡る笑い声。
「この笑い声、どっから聞こえるの!?」
「出たっ、幽霊が出たんだよ!!」
誰がいつ殺されるか分からない事を改めて理解させられ、2人は肩をぶつけ合いながらトイレを飛び出す。
然し、腰紐の先には亜希子が繋がっている事を忘れてはならない。
亜希子が錘になって2人は引き留められる。
重みを振り返れば、グチャリ……と個室から零れ出る亜希子の死に顔が向けられるから、登美と理恵は悲鳴を上げながら不器用にビニール紐を解く。
「ヒッぃいゃあぁあッぁあああ!!」
「もぉヤダぁあぁあぁ!! ヤダぁあぁあぁ!!」
この騒ぎに弓絵が保健室のドアを大きく開けると、登美と理恵が揃って飛び来み、床に転がる。
弓絵は2人に弾き飛ばされて床に背中を打ち付けるも、亜希子の姿が無い事に慌てて体を起こす。
「ぁ、亜希子チャンは!?」
「死んだ!! 死んだぁあぁあぁ!!」
「幽霊だよ! あんなグチャグチャなの、幽霊じゃなきゃ出来ない!!
あんなのヤダ! あんな風に殺される何て絶対に嫌だぁ!!」
尋常でない2人の怯えに、弓絵と義也が亜希子の死を疑う事は無い。
義也は彗の手を握りながら腰を抜かしてベッドの足元に座り込む。
「マヂ、か……」
確実に何らかの力によって殺されてゆく。
警戒なぞ、無意味なのかも知れない。