第40話

文字数 941文字

 弓絵と彗は義也を支えながら、3階南校舎の1番端の空き教室に逃げ込む。
ドアを閉めると、ロッカーを背凭れに義也を座らせる。

「床に寝かせると血を吸われるっ、義也、堪えてくれ、」

 彗は上着を脱ぎ、義也の腹部に宛がうが、やはり この程度では何の処置にもならない。
弓絵は冷たくなって行く義也の手を握って泣きじゃくる。

「早く、早く、元の世界にっ、」
「ゅ、弓絵……」
「義也、、ごめんね、ごめんね、私が、私が、、」
「こンくらい、大丈夫、だっつ、の……」
「! ……ぅ、うん、そうだね、大丈夫、大丈夫……ぅぅッッ、
ありがとう、義也、、助けてくれて……
次は絶対に帰れるから、そしたら直ぐに病院に行って治して貰うから、ぅぅぅっ、
何にも心配いらないよ? 私が、全部全部、片付けるからっ、絶対に、私がっ、」
「ごめんな、弓絵……」
「ぇ?」
「お前じゃ、無かったンだよ、な……」
「……」
「お前が、おまじない何て、なぁ……柄じゃねぇって、ハハ、……ちと考えりゃ、解かるってのに……俺、バカだから……」

 こんな時でも義也は強がりだ。
苦しむ顔では無く、小さな笑みを浮かべている。
弓絵をこれ以上 動揺させない為の気遣いが男らしい。

 彗も義也の傍らに膝をつき、力無い手を握る。

「義也……弓絵を守ってくれて ありがとう、」
「ま、ぁな……お前との、約束、だし……つか、後、任せられても、困っけど……」
「義也、」
「お前、まだ、いけンだろ……?」
「! ……ぁぁ。勿論だよ。」
「良かっ、た……弓絵の事――」

 後に続く言葉は無い。
弓絵は義也の胸に突っ伏して泣く。

「義也っ、」

(いつも一緒にいてくれた、いつも励ましてくれた、義也はね、私の太陽だったの……)

「一緒に帰りたかったっ、」

 彗は俯き、何度も深呼吸を繰り返しながら、そっと義也の瞼を降ろす。

「大丈夫だよ、弓絵……キミが戻れるまで、僕が必ず守ってみせる。
この空間であっても僕は異質な存在のようだから、弓絵達が触れないものでも、僕なら触れる事が出来る」

「!」

 1度、彗は黒い手に襲われた弓絵を助け出している。
然し、弓絵が同じ様に理恵を助けようとしたが全く歯が立たず、黒い影にしろ弓絵が触れる事は出来なかった。
生と死の丁度 狭間にいる彗だからこそ、暗闇に影響を与える事が出来たのだろう。


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