第46話

文字数 3,102文字


 春になると、私は高校1年になった。
家から1番近い高校に通ってる。
って言っても、チャリで1時間はかかるけど。

 田舎町はウザイ。
ジジィやババァだらけで遊ぶ場所も無い。友達もイナイ。

「ねぇ登美ぃ、アンタの中学ってさぁ、廃校なんだってぇ?」
「ウッソ!? イマドキそんなんあんのぉ!?
「どんだけ田舎だっつーのぉ! キャハハ!」
「うっせぇなぁ、隣町だって大して変わんねぇんだよッ、」

 高校のクラスメイトもマジでウザイ。
休み時間になるとイチイチ絡んで来るし、大体クラスの人数多いんだよ。
30人って何? 顔と名前 覚えらんねぇっての。

「変わるデショ? ってか、一緒にすンなっての、淫乱中学・駆け落ち学級ぅ」
「ハァ? 何ソレ?」

 中学のクラスメイトは7人だった。
幼稚園から中学3年まで たった7人。

「登美だけハブって、他の子ら駆け落ちしちゃったンでしょぉ?
皆、ウワサしてるよ~~?」
「ねぇ登美ぃ、実際どぉなの?
ホンキで駆け落ちとか、昼ドラみたいなコトしちゃうヤツらだったの?」
「キャハハ! ってか、マジウケる~~」
「6人揃って消えるとか計画的だよねぇ。登美も連れてって貰えば良かったのにぃ」
「ってかぁ、廃校、お化けでるンぢゃぁん? 今の内に肝試ししとくぅ?」

 私に絡んで来るのは、この手の話がしたいからだ。
中学生6人失踪事件―― ホントの所はどうなのか?
誘拐か、集団家出か駆け落ちか、私がこの高校に進学すると、そんなウワサが一気に広まった。

(ホントのコト言ったって信じねぇよ、バぁカ……)

 皆、殺された。
あっちの真っ暗な世界で。

「ハァ……ウザ。勝手に言ってれば?
私は何にも知らないし、聞いてないし、クラスメイトってだけで括られたくないし」

 何も話したくない。学校にもいたくない。もう帰る。

「付き合いワルぅ。登美ってホントつまんなぁい」
「ってか、白状なヤツ。そんなんだからハブられンだよぉ、ブス!」
「イイんじゃない? アレがイケてるって本人思ってンだろぉし?
あんなんで愛想良くされても不気味っショ?」
「キャハハハ! マジウケる~~」

 元々、人付き合いは得意じゃないんだ。
だからって、1人でいたいワケじゃないけど……
でも、我慢してまで仲良くしたくない。嫌なモンは嫌だから。

 弓絵チャンみたいに、あっちこっちに気ぃ使って笑顔ふりまくのもウザイ。
西原みたいに、気合だけで何でもこなそうとする暑苦しいのもウザイ。
理恵みたいに、イイ女ぶって気取って歩くのも見ててウザイ。
亜希子みたいに、内気キャラぶってアザトイのもウザイ。
俊典みたいに、ちょっと趣味が合うからって馴れ馴れしくされんのもウザイ。

 だけど、ソレ程 我慢しないで一緒にいられた。

 弓絵チャンは、優しくって、困った時はいつも助けに来てくれた。
西原は、仲間に入れてくれて、ソレが当たり前って顔して、違和感なく居場所を作ってくれた。
理恵は、新しい事を沢山 教えてくれて、遊びもファッションも思いっきり楽しくしてくれた。
亜希子は、私のやる事なす事 全部に興味を持ってくれて、褒めてくれない日は無かった。
俊典は、楽しそうにゲームしてくれて、一緒に先生に怒られてくれて、懲りずに遊ぼうって誘ってくれた。

 皆、イイヤツらだった。

(高野クン……)

 彼は、キレイな人だった。
優しくて、静かで、押し付けがましくなくて、ソレでいて考えをシッカリ持ってて、いつも私達の気持ちを尊重してくれて、私達が仲良く過ごせていたのは、高野クンが見守ってくれていてくれたからだ。

(好きだった……)

 見ているだけで幸せだった。
彼が私以外の子を好きでも、彼が学校に来る度に1日が充実した。

「ハァ。どぉでもイイわ、そんな事」

 帰り道、チャリ漕いで、ジジババばっかりの友達のいない町に帰る。
だから、いつも皆の事を思い出して、そうして、途中に必ず見える廃校になった母校を見て、あの日の事を思い出すんだ。

(真っ赤……)

 焼却炉の炎。
スゴく赤くて、血ぃみたいだって思った。

(あっちの世界って、閉じた後はどぉなってんだろ?
3人は まだ生きてんのかな?)

 あの真っ暗な校舎の中に閉じ込められた、高野クンと弓絵チャンと西原。
ってか、アレから何ヶ月経ったよ? あそこで生きるとか絶対ムリ。

(最期に残ったのは誰かな? やっぱ、弓絵チャンかな?
高野クンも西原も弓絵チャンのこと守って死んでそ)

 チャリ止めて、閉まったままの錆びた校門の前に立って、殺風景になった校舎を眺めるのは今日で何回目だろ?
6人がいなくなって、この田舎町は大騒ぎになって、学校どころじゃなくなった。
私は ずっと自宅待機で事情聴取の毎日。マスコミにインタビュー何かもされた。
何処を探しても人っ子一人見つからないモンだから、結局、6人は失踪者として処理された。

 騒ぎが静まって学校へ行っても1人だし、卒業制作はそれこそ意味が無いと思ったから そのままにした。
不完全のまま、何れ校舎ごと取り壊される。

「早く壊れろ」

 1人ぼっちの卒業式。
先生達の啜り泣く声。
飾られた6人の写真。

「全部、忘れるから」

 私は悪くない。
だって、あの時は ああするしか無かった。
確かに、私がちゃんと片付けなかった所為で あんな事になったけど、元々は理恵が あんな事をやろぉ何て言い出さなけりゃ良かったんだ。


『何ソレっ、面白がってたクセに……』


 半信半疑で面白がってたのは理恵の方だ。
信じてたら やらなかっただろって、だって、悪霊に呪い殺されるんだから。


『ちゃんと捨てたよね? おまじないの時に使った紙』


 もっとマジメな話って分かってりゃ、私だってちゃんと片付けた。
理恵も亜希子もビビッたってだけで、迷信を信じたからじゃない。
だから私も、そこまで真に受けなかったんだ。


『鍵を始末したと同時に、この空間が閉じるンだぜ?
取り残されたヤツは どうなる?』


 運が悪かったんでしょ?
西原だって、私と同じ立場になったら同じ事するよ。

 あの時、運良く紙切れが見つかったとしてさ、
ソレを私が向こうに持ち帰ったとして、ソレで どうなんの?
焼却炉で燃やされなくて良かったってだけの話じゃん。

 4人で飛べなかったら?
飛べたとして、次はいつこっちに戻って来られるかも分かんない。
その間に1人ずつ殺されるに決まってんじゃん。
バカでも解かるよ、そんな事。

「だから、私は悪くない」

 可哀想だとは思うよ、あんなトコで あんな風に殺されたんだから。ソレは同情するよ。でも、私には どうにも出来ない事だったんだから、どぉしよぉもないって。
折角 戻れた私まで無駄死にする必要ないって。

「ってか、もぉ来ないから。過ぎた事 言ってもウザイだけだし」

 嘆いたって、失ったものは戻って来ない。
あんな所で殺されなくて良かった。戻って来れて良かった。
それだけで充分 良かったって、私は納得してるんだ。

「じゃぁね」

 チャリ乗って、家に続く帰り道。
ジジババばっかの帰り道。友達はイナイ。

「ぅぅッ、」

 悲しく何か無い。私だけでも助かって良かった。
皆殺しにされるより、ずっとマシ。

「うあぅぅッ、あぁッ、」

 涙なんか、風に吹き飛ばされろ。


ズン!!


「――え?」

 揺れた。



ドサッ!!



「イタッ、」


 暗い……


「え? 何? ……学校?」

 通い始めたばかりの高校の校舎。
でも、光も届かない真っ暗な校舎。


「ウソ、でしょ……?」


 スマホのディスプレイは13時50分でストップ。
秒針が動いてない。

「そんな……まさか……」


バタバタバタバタバタ!!
キャハハハハハハハハ!!

バタバタバタバタバタ!!
アハハハハハハハハハ!!


「誰かが私の名前、書いた……?」


 暗闇は何処にでも現れる。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み