第5話

文字数 907文字

「弓絵、僕だっ、」
!! ――す、彗、君……?」
「うん、大丈夫っ?」

 いつの間にやら、あの騒ぎは通り過ぎた様だ。
聞き慣れた声に弓絵は堰を切った様に泣き出す。

「す、彗君、、私、何が何だかっ、」
「弓絵、落ち着いて。僕がついてるから」
「ぅ、うん、」

 弓絵は必死に嗚咽を飲み込み、涙を拭う。

(目が暗闇に慣れてきた……)

 視界の回復と共に気持ちも落ち着く。
然し、安心したのも束の間、次には重々しい音が近づいて来る。


ズルズル……ズル、
ズズズズズ……


 何かを引き摺って歩く様な音。

「アレ、何の音? 近づいて来る?」
「弓絵、コッチへ」
「ぅ、うん、、」

 彗に腕を引かれ、教室に身を隠す。

(一体、何が起こってるの!?
私達は卒業制作をしていて、16時になるから帰ろうって……
そうだ。今はまだ16時の筈だ。ソレなのに何で こんなに暗いの!?

 弓絵が考えを巡らせている間に、物音はゆっくりと教室前を通り過ぎる。
何事か確認する事は出来なかったが、相手も2人が身を隠している事には気づかなかった様だ。

「行ったみたいだね……弓絵、大丈夫?」
「ぅ、うん……あっ、ごめん、」

 恐怖の余り彗にしがみ付いていたから、弓絵は慌てて体を離す。

「ぁの、その、
――アレ? ココ、生徒会室? 私達、2階の教室前にいた筈じゃ……」
「うん。僕は気づいたら理科室にいた」

 生徒会室も理科室も3階だ。

「えっ? ど、どうして……」
「解からない。
でも、地震が起きて、暗くなって、その一瞬で移動したんだとしか……」

 瞬間移動説。
彗の言葉とは言え流石に信じ難い話だが、今はそうゆう事にしておこう。

「皆は、」
「僕は弓絵の声が聞こえたから見つける事が出来た。
皆は、別の場所にいるのかも知れない」
「さ、探しに行かなきゃ、」
「待って、弓絵。
確かに皆の事も心配だけど、先ずはここを出る事を考えよう?
良く解からないけど……どうもココは奇妙だ。嫌な感じがする」

 確かに この暗闇と言い、あの音と言い、瞬間移動に於いては説明すら付けられない。
たった7人ばかりが集う校舎で、こんなトリッキーなイタズラが出来るとも思えない。
“だとしたら何なのか?”と問われても、解からないとしか言い様もないのだが。

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