第32話

文字数 1,407文字

「そんなん出来ねぇよッ、」
「やって貰わなきゃ困る!」
「彗、」
「義也、瞬間移動し続ければ いつかきっとココから出られる」
「! ……ゎ、解かるけどよ、」

「向こうへ戻ったら、鍵を見つけるんだ」

「鍵?」

 瞬間移動のタイミングや性質、その他にも彗は気づいている事がある。

「原因と結果の法則だよ。偶然こんな事が起こるとは思えない。
この現象を引き起こした“鍵”となるべきものが何処かにある筈だ。
それが、僕らの世界と この空間を繋げているに違いない」
「それが向こうにあるってのか?」
「事の始まりが向こうの世界なんだ。そう考えるのが妥当だろう」
「鍵が見つかったとして……その後どうすりゃイイ?」
「次の瞬間移動までに、何らかの形で消すんだ」
「何らか?」
「壊せるなら壊す。燃やせるなら燃やす。溶かす、流す、埋める、色々あるだろ?」

 鍵が何なのか分からないが、属性に合った廃棄をすれば良いと言う事だ。


「そうすれば きっと、この空間は閉じる」


 瞬間移動は起こらなくなる。
2度と暗闇校舎に舞い戻らずに済む。

 少なくとも、3人未満であれば瞬間移動は成立する。
共に元の世界に戻る事が出来れば、手分けをして鍵を消し去れば良い。
その事を、弓絵と登美に伝えるべきが急がれるのだ。

「僕の事は構わず、元の世界を目指して瞬間移動を繰り返すんだ。
でも義也、1つだけ約束して欲しい。
向こうの世界に戻れた時、もしもその場に弓絵がいなかったら、弓絵がここから出るまでは鍵を見つけても消さないでくれ、
空間が閉じれば、その時点でココに居残っていた者は閉じ込められてしまうだろうから……」

!!

 “鍵の発動=空間の開放”であれば、“鍵の消失=空間の閉鎖”だろう。
閉じ込められれば戻る事が出来なくなる。
然し、鍵と言われても検討が付かない。1時間でソレが見つけられるとも思えない。

「俺に、俺なんかにそれを任すのかよ……彗、やっぱり お前が一緒にいてくれねぇと、」

 千載一遇のチャンスを生かせる気がしない。義也は遂に弱音を吐く。
彗は義也の肩を掴む。

「僕に出来る事なら何だってする! でも僕は……」

 思うように体が動かない。
彗こそ、千載一遇のチャンスを生かせる気がしないのだ。

「義也ッ、僕等がここに来た事には必ず理由がある筈だっ、
鍵が何なのか、誰かが知っている筈なんだ、全員殺される前に探し出さなきゃならない!」
「彗、」
「僕は その為に出来る限り時間を稼ぐ。
頼む、僕に力を貸してくれっ、弓絵を助けてくれ!
弓絵が無事に元の世界に戻れるなら、僕は この世界に閉じ込められても構わないんだ!」
「!」

彗の強い訴えに義也は目を見開く。


「――解かった。絶対に俺が何とかしてみせる」


 義也は立ち上がり、彗を引っ張り上げる。

「俺が先に出る。
後は、得意の悪知恵 使って、絶対にテメェの身を守りきれよ?」
「うん。任せて」

 義也は彗の手を今一度ギュッと握り、思いを込める。

「後で合流しよう。何度 飛ばされたって保健室で待ってる。
そいで、お前も一緒に戻るんだからな。絶対に」
「うん」

 暗がりだが、彗が穏やかな笑みで微笑んだ事が分かる。
義也は覚悟を決めると教室のドアを開け、駆け出す。向かうは保健室。
彗は暗闇に消えて行く義也の背を出来る限り見送り、肩を撫で下ろす。


「ありがとう、義也。僕の友達になってくれて……」


 彗は浅い息を吐き、胸を押さえる。


「時間が無い……」


 時間が無いのは、彗自身にも言える事。


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