第44話

文字数 891文字

「やめてよ? 卒業前に そんなの流行らせるのやるのは。
実際に行方不明になったって子も沢山いるんだから」
「え?」
「6人、だったかな? 揃って家出しちゃって。
暫くして1人だけパッと戻って来たそうだけど、友達を迎えに行くって言ってソレっきり。だから、禁止令」
「……」

 その当時も、誰かが後始末を怠ったのだろう。
そして、あの暗闇校舎へ引き摺り込まれたに違いない。
そして、友人を助けるべく引き返した生徒も又、帰らぬ人となったのだ。

 登美は携帯電話のディスプレイに目を落とす。
20時40分。


『こっちの空間に誰か1人でも残ってたら、鍵を見っけても始末できねぇって事だ』

『鍵を始末したと同時に、この空間が閉じるンだぜ? 取り残されたヤツは どうなる?』


 義也の言葉を思い出せば、早く まじないの紙を取り戻さなければならないと強く思う。登美は今一度 立ち上がる。

「先生……」
「なぁに? 落ち着いた?」
「―――やっぱ、……燃やしちゃって、イイや……」
「えぇ?」
「早く燃やして」
「はぁ……はいはい」

 登美が落ち着いたのを良しに、担任教師は頷く。
マッチに火を点け、焼却炉の口の中に放る。


ボッ!!


 火は瞬く間に広がり、焼却炉内を真っ赤に染める。

 次の瞬間移動を迎えれば、再び暗闇校舎に戻される。
元の世界に戻れた今こそが、千載一遇のチャンスなのだ。
この機を逃す程、登美は考え無しではない。確実な一手で我が身を守る。

担任教師は焼却炉の蓋を閉めると、若き日の学生時代を思い出しながら楽し気に続ける。

「そうだ。その おまじない、“ことどむすび”って言うのよ?」
「……何ソレ? どうゆう意味?」

「“ことど”って言うのは、“扉に閉ざされた場所”の事なんだそうよ?
その閉ざされた場所とを、“言葉で結ぶ”って意味らしいわ。
両想いのおまじないって聞くと可愛らしいけど、本当の所を知ると ちょっと怖いわね。あの世と繋がっていそうで」

「……」

「あぁ! ホラ、21時になっちゃったわよ! 火が消えたら、送って行くからね」

「うん……」

 時刻は21時。瞬間移動は起こらない。
登美は煙突から立ち上る煙を見上げ、表情も無く その場に佇む。


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