第3話

文字数 966文字

 実際、登美にとって俊典は趣味が合うと言うだけのクラスメイトなのだが、彗に対しては特別な感情を抱いている。
勿論、彗が弓絵に惹かれている事は登美にも見て取れる。
だからこそ、見て済ますだけの感情に留めているのだ。
ソレを余計なチャチで乱されたくは無い。

 登美は気分を害し、トイレへとエスケープ。
その背を黙って目送する亜希子の呆けた様子に、義也は訝しむ。

「藤山、どうした?」
「義也クン、ソレがぁ……登美チャン、卒業制作やりたくないみたいで……」
「あぁッ?」
「悪気は無いんだと思うよ?
だけど、どうせ壊されるんだからムダって、さっきから ずーーっと……
でも、弓絵チャンが一所懸命デザインしてくれたんだし、私、登美チャンの分も頑張るから!」
「ったく、久松のヤロ、つまンねぇこと言いやがって……
まぁ、ほっときゃイイさ。別に藤山の所為じゃねぇから気にすンな」
「うん! 義也クンが そぉ言うなら!」

 亜希子は頬を赤らめ、一層やる気を見せてミニタイルを貼る。
義也はあから様に呆れ返った溜息をつくも、弓絵の頭をポンポンと撫でる。
デザインや設計を1人で担った弓絵には聞かせたくなかった話だ。

「お前も気にすンなよ、弓絵」
「うん、大丈夫よ。義也、ありがとう」
「僕は楽しいけどな、こうゆうの」
「彗君……」
「僕にでも出来る事を選んでくれたんだよね? 弓絵は」
「!」

 卒業後は、夫々が別の高校へ進学する。
弓絵に限っては これを機に田舎町を離れ、都会に引っ越す予定だ。
そうなれば、当たり前に過ごして来たクラスメイトとの時間が失われてしまう。
だからこそ飛び切りの思い出を作る為、皆でトレッキングに行くだの、都会見学に行くだの、諸々の案が挙がっていたのだ。
然し、そんなプランでは、虚弱体質の彗が参加するのは難しい。

 いつでも彗が参加できるように。
皆で取り組む時間が1日でも長くなるように。
だからこそ、壁にミニタイルアートを描く地道な提案を弓絵は強く押したのだ。

「私の独りよがりになっちゃって……もっと頭を使えれば良かったね。
皆には悪い事しちゃった……」
「バーカ。何がワリぃンだか分かンねぇし。
つか、賛成票 入れたのは俺なんだよ。文句なんか言わせねぇ」
「ハハハ。だよね。弓絵、きっと奇麗なのが出来上がるよ。楽しみだね」
「うん!」

 出来上がってしまえば、皆 納得するに違いない。

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