第45話

文字数 720文字

「火だ――」

 真っ暗闇の暗闇校舎が真っ赤な炎に包まれる。
弓絵は彗の手を取り、冷たくなった義也の体に身を寄せる。

「何? 今度は何っ? そろそろ瞬間移動の時間じゃないのっ?」

 煙は臭わない。然し、炎の熱量だけは感じる。
彗は次第を理解すると、弓絵と義也を抱き締める。


「鍵が、燃える」

「!」


 鍵。
元の世界と暗闇校舎を繋ぐ鍵が、消えようとしている。
弓絵は周囲の真っ赤を見回し、この空間が閉ざされてゆく感覚に全身の力を失う。

(間に合わなかった……)

 現実は4日目の焼却炉稼働時間を迎えたのだと、弓絵達は理解する。
まさか、登美が元の世界に戻っているとは思いもしない。

(もう、帰れないのね……)

 “鍵が失われれば暗闇校舎に閉じ込められる”と言うのは、少し都合の良い解釈だった様だ。
事実は、生きていようと死んでいようと、空間ごと燃やし尽くされる。

「弓絵、ごめん……キミを巻き込んでしまった……」
「え?」

 弓絵は顔を上げ、瞠若する。

「あの時、心臓が止まる瞬間……僕は願ってしまったんだ。
弓絵とだけは離れたくないって……」
「彗君……」
「もしかしたら、誰の所為でも無く、
僕自身のエゴが 皆までも道連れにしてしまったのかも知れない……」
「……ううん、彗君は何も悪くないよ」

 16時。あの瞬間。
弓絵は偶然に巻き込まれたのでは無い。
彗のひた向きな想いが、弓絵を結び繋いでしまったのだ。
然し、ソレを咎める思いは無い。

「義也がいると、私はいつも元気でいられるの。
彗君がいると、私はいつも安心して笑顔でいられるの」

「弓絵……」

「だから、ずっと3人、手を繋いでいようね」

「うん……勿論だよ、弓絵」

 燃え盛る真っ赤な暗闇。
全てが燃えて燃え尽きて、繋いだ手は離さずに、静寂の彼方へ。


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