第29話

文字数 951文字

(――助けられなかった)

 彗の様に体を張って手を伸ばせば助けられると、弓絵は信じていたのだ。

「理恵、チャン……」

 然し、理恵は闇の彼方に消えて行き、今はもう悲鳴すらも聞こえない。
弓絵は廊下に突っ伏し、泣き崩れる。

「ぅぅぅッ、ううッ、ぁぁッ、」
「ゅ、弓絵チャン……」

 足を竦ませて怖ず怖ずと やって来る登美は、弓絵の名前を呼んだきり、かける言葉が見つけられずにいる。

「登美チャン……」
「な、何?」
「3人じゃ、駄目だったの……」
「ぅん……」
「私達はもう、4人しか残っていない……」
「……うん」

 瞬間移動は3人では成立してしまう。
手を繋ぐ人数が減る程に、回避できなくなると言う事だ。
ならば、今 生き残っている4人ではどうかと言う問題。
否、今も義也と彗が無事でいると言う確証は無い。

「お願い……協力して……コレ以上 失えば、誰も生き残れないっ」

 生きて元の世界に戻る為にも、恐怖に打ち勝つ勇気が必要だ。
弓絵はヨロヨロと立ち上がり、痛む肩を押さえながら登美に向き直る。
この強い思いに、登美は頷かないわけにもいかない。

「ゎ、分かった……」
「義也は きっと彗君と一緒にいる筈。
義也は彗君の為にも保健室に戻ろうとする。だから私達も」
「ぅん、」
「でも その前に教えて。何があったの? 心当たりがあるなら、教えて」
「!」

 何故こんな事態に陥ったのか、切欠・原因・いつもとは違う何か。
登美と理恵は心当たりがあるからこそ、言い争っていたのだ。
弓絵はソレが知りたい。
ソレが解かれば、この暗闇校舎から脱出できるかも知れない。

 涙交じりの弓絵の問いに、登美は観念を決めて頷く。

「理恵が……両想いになる おまじないがあるって、声をかけて来て――」


『おまじないには3人必要なの』
『バカバカしい。そんなの迷信じゃん?』
『参加したら、私も両想いになれるかなぁ?』
『やるだけやってみようよ! 願掛けだと思ってさ!』


「信じて無かったけど、面白そうだったし、卒業制作 ウザかったし……
だから、3人で空き教室に集まったんだ」

 登美は放課後の卒業制作に専らサボリ癖を発揮している。
然し、数日前のある日には、理恵と亜希子も一緒になって顔を出さなかったのを弓絵は覚えている。
その日に3人は、その両想いになるまじないと言うのに挑戦していたのだろう。

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