第21話

文字数 1,402文字

 保健室の中は静かな時間が流れる。
彗の呼吸は だいぶ落ち着いたようだ。

(体温は上がらないままなのが気になるけど、彗君が眠っている間にここから出る手立てを見つけなくちゃ)

 出口を探しに行くと言っていた義也だが、保健室の前を行き来するに留まっている。
同行すると言って聞かない弓絵を危険に晒す事も出来なければ、保健室に残してゆく彗を他の3人に任せる事も出来ないと言う判断だ。
何度も同じ窓に手をかけるも鍵は開かずを繰り返し、零す溜息も次第に力が失われていく。

(義也は ああ見えて友達思いだ。
私達が気づかない所で常に気を配ってくれている。
今も、皆が助かる為に出来る事を探してくれている)

 今 動ける唯一の男手と言う事も理解している筈だ。気持ちは張り詰めている。
弓絵は保健室前の義也に駆け寄り、袖を掴むと声を潜める。

「義也、中に入って。皆で手を繋いでいよ?」
「……イイって。俺は廊下で様子見てっから」
「あのね、こんな話し聞きたくないだろうけど……でも聞いて。私、見たの。
コレ以上 皆を怖がらせちゃいけないと思って黙っていたけど、笑い声と足音の他に、何か引き摺って歩く人の姿を見た」
「俺達の他に誰かいるのか?」
「どんな人か……人だったかどうかも分からないけど、」
「お前まで なに言ってンだよ、」
「声が変だったの……人のようには聞こえなかった……
何かを探してるようで、“ナカミ”って」
「中身?」
「意味は分からないけど、そう聞こえた。
ココは普通じゃない……彗君もそう感じているし、義也も解かってるでしょ?
真っ暗で時間も動かない、瞬間移動が起こるこんな所なら、何が出たって可笑しくない。だから、ね? 皆のそばにいて」
「……」

 この暗闇校舎の中に、何らかの悪意が存在するのは確かな事。
幽霊だの変質者だのと思う事で警戒できるなら ソレに越した事は無い。
弓絵は義也を連れて保健室に入ると、静かにドアを閉める。

(今を受け入れるんだ。そして考えるんだ)

 弓絵は義也と共にベットの傍らに立ち、彗を見つめて独り言の様に話し出す。


「きっと、何かトリックがあるんだと思う」


 この言葉に、一同は弓絵を見やる。

「マジシャンがいるって言うんじゃ無くて、兎に角、仮定……
彗君のように考え易くしていけたら良いんだと思う」

 今は頼みの綱がいない。
誰かが その役割を買って出なくてはならない。

「ココは、私達がいた世界とは違う、異次元空間なのよ。だから こんな怖い事が起こる。
私達は 気づいたら この異次元空間にいるけど、いると言う事は……
入り口があったんだと思う!
きっと気づかずに その入り口を通過してしまったのよ。だからココにいる。
だとしたら、出口も何処かにある筈」

 暫定、異次元空間。
然し、誰も笑い飛ばしたりはしない。
“入って来られたのだから出られる”と言う単純なロジックに光明を得る。

 保健室の隅で膝を抱えていた理恵は、この話に頭を上げる。

「出口、何処にあるのっ?」
「ソレは分からないけど……
だって、入り口が何だったのかも分からないんだもの、」
「何ソレ? じゃぁ、入り口って そもそも何なの?」

 弓絵の口切りに期待したのが間違いか、目処の無さに登美の疑問符には疲れの色が見える。弓絵は視線を泳がせ、懸命に思量する。

「ソレは その……
入り口って言うのは きっと……私達が一緒に同時に体験した事で……」

 弓絵の混迷の呟きに、義也はパチン! と指を鳴らす。

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