第15話

文字数 856文字

我ながらアホだなと思うのだけど、仕事をしながら本当に無意識のうちに口ずさんでいた。

「ブンブンイレブン、イレブンブンブン♪」

ご丁寧にも、体でリズムを取って。
しかも、そこそこの声量で。
家で仕事をしているとどうしても独り言が多くなる。
そして、気づいた。
今はひとりではなかったということに。
はっと振り向いて、ソファーのほうを見てみると健斗さんが片手で頭を抱えていた。
やらかした。
どうしよう……呆れられた?
それとも幻滅されちゃった……?
こういうときは自分から声をかけたほうがいいのかしら……でも……あれ?
健斗さん、震えてる……?
いや、これは笑ってるな……。

「……そんな声を殺してまで笑わなくたっていいじゃないですか」
「いや……ふふっ……」
「あーあ、健斗さんといるときは気を付けてたのに……」
「なるみさん、普段から結構言っていますよ。まぁ、さっきのようにはっきりと口にしていたのは初めてですけど……ふふっ……」
「笑いすぎです。というか、私、普段からそんなに言ってます……?」
「あれで気を付けているつもりなら、もう気を付ける必要はないと思いますけどね」
「えぇ~……」
「まぁ、私としては嬉しいですけどね」
「何でですか?」
「私との暮らしに慣れてきたってことでしょう?一人暮らしのときと同じくらいリラックスできていると」
「……完全にリラックスしちゃったら幻滅されちゃうかも」
「私としては早く完全にリラックスしてほしいんですが」
「前にテレビで言ってたじゃないですか。女優さんと結婚した役者さんが『奥さんが美人すぎていまだに家でも緊張する』って。あの感じです」
「ほう、それはありがたいですね。私もなるみさんと暮らし始めるときにはそれなりに緊張はしましたけど、それでもあなたと暮らせる喜びのほうが勝っていましたよ」
「そ、そうですか……」
「ちなみに」
「……?何です?」
「私は完全にリラックスしたなるみさんがどんな状態だったとしても、きっと愛おしいと思いますよ」
「は、恥ずかしい……」
「次はもっと面白い独り言、期待していますので」
「ぐぅ……」
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