第49話

文字数 1,340文字

夢心地の状態から薄っすらと目を開ける。
ぼんやりとした意識のまま見上げると、健斗さんがまだ眠っておられる。
珍しく健斗さんよりも早くに目を覚ましたらしい。
この人、なんでこんなに寝顔まで完璧なんだろうか……と思いながら、その寝顔を見つめる。
しばらく見つめていたけど、起きる気配はない。
健斗さんを起こさないようにベッドから抜け出して、洗面所へ向かう。
鏡で見ると寝癖がまぁひどい。
ちょっとこの寝癖はどうにかしておいたほうがいいかもしれない。
その前にとりあえずうがい、うがい……と、うがいを終えたところで寝室から音がした。
健斗さんが起きたのかな。
その後、リビングのほうで少しばたついた足音が響いてきて、どうしたのかなと洗面所を出ようとしたところで健斗さんと鉢合わせした。
健斗さんの胸元に頭突きをするような形になってしまって、ごめんなさいと言おうとしたものの、思っている以上の力強さで抱きしめられ、驚いて何も言えなくなってしまった。

「ああ……よかった……」
「んん、健斗さん、どうしたんですか?」

健斗さんは何も答えないまま、ずっと私を抱きしめている。
私は私でわけがわからずに、抱きしめられたまま。
しばらくすると、健斗さんが通常運転に戻った。

「ふぅ、取り乱しました。すみません」
「わけがわからないんですけど……」
「悪い夢を見たもので」
「悪い夢って?」
「……なるみさんが出て行ってしまう夢を」
「あー、それで実際に目が覚めたら私がいなくてって話ですか」
「本当に生きた心地がしませんでした」
「ふふふっ、大げさですよ」
「はぁ……とりあえず何か飲みましょうか」

そう言って、健斗さんは朝のハーブティーを淹れてくれた。
お互いにほっとしたところで、私はソファーに座っている健斗さんの膝の上に乗って、健斗さんに向き合う。

「健斗さんもそういう夢を見ることがあるんですねぇ」
「まぁ、愛想を尽かされないかと常に不安はありますから」
「愛想を尽かす要因が何ひとつないんですけど」
「その……私がなるみさんのことを好きすぎて構いすぎているんじゃないかとか……私が毎晩のように求めるので無理に付き合わせているんじゃないかとかですね……」
「んふふふふっ……健斗さん、私のこと好きすぎるんですか?」
「そうなんですよ」
「初めて聞いたんですけど」
「まぁ、初めて言いましたからね」
「嬉しいです。私も健斗さんのこと好きすぎて、甘えすぎちゃって嫌われないか不安になります」
「嫌いになんてなるわけないでしょう。もっと甘えていいくらいです」
「あと、その……夜も無理に付き合ってるとかそんなのないですから。……健斗さんとするの気持ちいいから、これからもずっとしてほしいです……」
「ふふっ、わかりました」
「あっ、そう言えば私も前に健斗さんに振られる夢見て、大泣きしながら起きたことがあります」
「それは初耳です。いつですか?」
「健斗さんが出張行ってるとき。あのときは本当に帰ってこなかったらどうしようって、気が気じゃなかったですね」
「困りました」
「何がですか?」
「そんな可愛いことを言われたら出張に行けなくなってしまいます」
「えぇ~、でも健斗さんが出張から帰ってくるときのお土産とか楽しみにしてるのに」
「ふふっ、現金ですね。でもそういうところも好きですよ」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み