第1話

文字数 3,112文字

健斗さんから、今日は会社の人と食べて帰ると連絡があった。
別に用意をしていたわけではないし、健斗さんが会社の人と食事に行くのはよくあること。
ただ、その場に女性がいたら……ということは毎回考えてしまう。
健斗さんは本当に素敵な人だ。
仕事もできて、優しくて、いつだって紳士的。
見た目も私的にはドストライク。
健斗さんには何の不満もない。
だからこそ、不安になる。
この幸せがいつか終わってしまうのではないかと。

帰りは何時くらいになるのかなと考えながら、お風呂上りに水を飲んでいると玄関の鍵がガチャリと開いた。
健斗さんが思ったよりも早くに帰ってきたらしい。
「おかえりなさい」
「ただいま。すみません、遅くなりました」
「いえ、思ったよりも早くて安心しましたよ」
「そうですか……」
靴を脱いで、私と向き合うと健斗さんは私をじっと見つめる。
よく見ると眼鏡の奥の目にいつものような鋭さがない。
むしろ、少しとろんとしている。
頬も少し赤い。
「……お酒、飲みました?」
「すみません。食後のデザートにお酒が入っていたようで……油断しました」
「あはは、やっぱり弱いんですねぇ」
「自分でも弱いのはわかっていましたが、ここまでとは……」
いつもかっこいい健斗さんの頬が赤くなっているのが可愛くて、頬を撫でる。
その手に健斗さんの大きな手が重なる。
その手が私の腕を優しく撫でると次の瞬間、健斗さんからキスをされていた。
「なるみさんは、本当に可愛いですね……」
健斗さんがそう言うと、軽いキスがどんどん深くなっていく。
息が苦しくなってきたタイミングで、健斗さんが私を抱き寄せて耳元で囁いた。
「……今すぐしたいんですが、いいですか?」
初めてのシチュエーションで、私はコクコクと頷くので精一杯だった。
健斗さんにそのまま抱き上げられて、ベッドに体が沈む。
すぐに健斗さんが覆いかぶさってきて、またキスをする。
さっき着たばかりのルームウェアが簡単に脱がされてしまった。
ムダ毛の処理をしておいてよかったな、なんて思ってしまう。
キスが口から首筋へと移り、そのまま鎖骨や胸を舌がなぞっていく。
胸が揉みしだかれて、先端を優しく吸い上げられる。
胸は感じないけど、健斗さんにこういう風にされると興奮してしまう。
そのまま健斗さんの舌がおへそからさらに下へと進んでいって、一番感じるところを舐めたり、吸ったり激しく攻められる。
いつものように指が2本入ってきて、ぐちゅぐちゅと音を立てる。
自分の呼吸がどんどん荒くなっていくのがわかる。
大きな快感の波が来て、腰がビクンと跳ねる。
いつもよりもすぐにいってしまった気がする。
肩で息をしながら快感の余韻に目を閉じていると、また健斗さんがキスをしてきた。
まだ呼吸が乱れたままの少し苦しいキス。
お互いの唇が離れたタイミングで、改めて健斗さんの顔を見る。
普段よりも優しくて、穏やかな表情をしている気がする。
「本当に可愛い……」
健斗さんに面と向かって、可愛いと言われたことはあったっけ?
嬉しい反面、本当に健斗さんなのだろうかと考えてしまう。
いつもはいった後にしっかり休憩させてくれるのに、今日はろくに休憩をさせてもらえない。
全身に余韻が残ったまま何度も何度もいかされてしまう。
いつもより自分がだらしなく乱れているのがわかるけど、どうしようもない。
それまで服を着ていた健斗さんが服を脱ぎ始める。
普段は脱いだ服を畳むのに、余裕がないのか畳むことなく椅子に軽く投げている。
休憩させてと言おうと思ったけど、健斗さんのそんな姿を見たら私もすぐにほしくなってしまう。
私の足をぐいっと開くと、愛おしむようにクリトリスにキスをした。
すでに何度いったのかわからないそこに、健斗さんのものが入ってくる。
実際には無理やりではないのだけど、無理やりねじ込まれるように入ってくると健斗さんにめちゃくちゃにされている感覚になる。
今までで一番激しくて、いつだって理性的な健斗さんが今日は本能のままに腰を打ち付けているような気がする。
いってもいってもやめてくれなくて、もうこれ以上は意識が飛んじゃうというところでやっと休ませてくれた。
「……健斗さん、今日どうしたんですか……?」
「私はね、なるみさんが可愛くて仕方ないんですよ」
「……普段、そういうこと全然言わないじゃないですか」
「なるみさんが思ってるより、私はなるみさんが好きなんです。好きで好きで仕方がないんですよ。どうしてくれるんですか?」
健斗さんがいたずらっぽく笑っている。
「……んー、責任とってずっと一緒にいます……」
うつらうつらとしながらそう答えて、私は意識を手放した。
目を閉じて眠りに落ちるその瞬間に、健斗さんが私の頭を優しく撫でた気がした。

翌朝。
目を覚まして、大きなあくびをする。
隣で寝ている健斗さんの胸板が目に入って、そのまま視線を顔に移すとバッチリと目が合った。
「おはようございます」
「おはよう……ございます……」
健斗さんは指の背で私の髪や頬を撫でている。
昨日はすごかったなと思いながら無意識のうちに健斗さんの体に触れる。
少しずつ意識がクリアになってくると、寝起きの顔をまじまじと見られていることに気付いて布団で顔を隠した。
「ふふっ、今さら何ですか?」
こっちは顔がむくんでもったりとしているのに、健斗さんときたらすっきりとした顔をしている。
きっと私よりも早くに起きていたんだろう。
「寝起きの顔、見られるの恥ずかしいんですよ……」
「ずっと見てましたけど、寝起きも可愛いですよ」
「……健斗さん、昨日からどうしちゃったんですか? 浮気でもしました?」
「浮気なんかするわけないでしょう」
「じゃあ、どうして昨日からそんな感じなんですか……」
「簡単に言ってしまうと、お酒が入って理性がちょっと飛びました」
「???」
いつも理性的な健斗さんの理性が飛んだ?
混乱している私の表情を見て、健斗さんが笑う。
「私がお酒に弱いのは知っているでしょう?」
「はい」
「お酒で失敗したくなくて普段から飲まないようにしていたのもあるんですが、なるみさんに対して自制心が効かなくなるのが怖かったんですよ」
「自制心……?」
「あー……そのですね、私はなるみさんが思うほどできた人間じゃないんですよ」
「そんなことないですけど……」
「無理をしていたわけではないんですが、なるみさんにガッカリされるのは嫌だったのでこれでもいろいろ自制していたんです」
「えっと……じゃあ、昨日言ってたのは……?」
「普段漏らさないようにしていた本心です」
可愛くて仕方ない、好きで好きで仕方がない……昨晩の言葉を思い出すと、顔が赤くなってしまう。
「本当に可愛いと思っていますし、好きで好きで仕方がないのも本当です。他の男に言い寄られていないか、毎日気が気でないんですよ。ただ、余裕がない男というのもみっともないでしょう?」
私が不安になるように、健斗さんも不安になることがあったんだと嬉しくなる。
「……私ばっかり好きだと思ってたので、嬉しいです。そういうの、ちゃんと言ってください」
「ふふっ、わかりました」
「それと……その……昨日みたいなちょっと激しいのもよかったです……」
言った後で恥ずかしくなって、布団をかぶる。
その布団を健斗さんが剥がして、真っ赤になった私の顔をのぞき込む。
「それと、昨日の言葉」
「昨日の言葉?」
「責任とってずっと一緒にいます、と言いましたよね?」
「……はい」
「言質を取ったということでいいですか?」
「……はい。というか、健斗さんこそ責任とってずっと一緒にいてくださいよ」
「ええ、もちろんそのつもりです」
相変わらず、健斗さんは素敵な人だ。
眼鏡の奥の鋭い目は、私を見るときだけ甘くなる。
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