第8話

文字数 1,011文字

健斗さんと一緒に暮らすようになって、初めて健斗さんが出張へ行くことになった。
国内だし、3日くらいだからまぁ耐えられるかなと思っていたけど、これが思いのほかつらい。
毎日一緒にいたから、そもそも健斗さんがいないことに慣れない。
電話でもかけたいけど、仕事の邪魔はしたくない。
一応メールでやり取りはしてるけど、それもあんまり長引かないようにしている。
はぁ……とため息をついていると、電話が鳴った。
画面には健斗さんの名前。
待ちに待った電話だったからか緊張して、おそるおそる電話に出た。

「も、もしもし……」
「あなたは寂しくないんですか」
「うぇっ!?な、何で……?」
「まったく……あなたのことだから頻繁に電話でもかけてくるのかと思ったら電話ひとつも寄越さないし、メールだってさっさと切り上げてしまうし」
「い、いや、めっちゃ寂しいに決まってるじゃないですか!仕事の邪魔しちゃいけないかなーって気を遣ってただけで……」
「はぁ……あなたの声が聞けないことのほうが仕事の邪魔になります。多少寝不足になっても、あなたの声を聞けるほうが仕事も捗るんですよ」
「そ、そうですか……私も健斗さんに会えなくて思ってた以上に寂しいんですよ」
「……私はあなたに会えないのがどれだけ寂しいかくらいわかって出張に来たつもりですけど、それでもつらいです。今後、日帰り以外は出張を断ろうかと思うくらいです」
「ほう……」
「何ですか?」
「いや、健斗さんも寂しいとか言っちゃうんだなと思って」
「……電話だと余計なことまで言ってしまうみたいですね。とりあえずあなたの声が聞けたのでよしとしましょう。今晩はあなたの写真を穴が開くほど見て寝ます」
「えっ、ちょっ、写真って……私、写真とか健斗さんにあげてないですよね?」
「こないだ写真を撮らせてくれたじゃないですか」
「いつ?」
「先週ですよ」
「え~、全然覚えてない……」
「寝起きのあなたから言質を取りました」
「ちょっと!それ、言質取ったことにならないですよ!ずるい!帰ってきたらどんな写真なのか私に見せてくださいよ」
「いえ、これは私のプライバシーの問題なのでお断りします」
「え~、私のプライバシーは……?」
「では、おやすみなさい」

健斗さんが持っている写真が気になりつつも、電話越しでも寂しいと健斗さんの口からはっきり聞けたことが嬉しくてニマニマしてしまう。
帰ってきたら「私と会えなくて寂しかったんですか?」と何度も何度も聞いてみよう。
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