第20話

文字数 1,385文字

仕事がひと段落して、甘いものが食べたくなった。
そう言えばアイスがあったなと思い出し、冷蔵庫へと向かう。
冷凍室を確認するとやっぱりアイスがある。
いろんな色のカップアイス。
チョコ味らしい茶色いカップがちょうど2個あったので、2個あるなら1個食べてもいいかなと手に取る。
ソファーに座ってアイスを半分くらい食べたところで、健斗さんが帰ってきた。

「ただいま帰りました」
「おかえりなさーい」

玄関に向かうと健斗さんが私の顔をじっと見ている。

「どうかしました?」
「なるみさん、チョコでも食べましたか?」
「へ?」
「口の横、ついています」

健斗さんが指さすほうの口角を自分でぺろっと舐めてみるとさっきまで食べていたアイスの味。

「アイス食べてたんです」
「アイス?」
「チョコ味が2個あったので」
「でも、種類が違ったでしょう?」
「えっ、そうなんですか?」

健斗さんはスーツを脱ぎながらリビングに向かうと、私の食べかけのアイスを見て一瞬固まった。

「なるみさん」
「何です?」
「あのアイス、私が先日買ってきたものですよ」
「えっ、それってもしかして……」
「まぁ、いわゆるお高いアイスです」
「……」

そうだった。
そう言えば、何日か前に最後の1個を買えたと珍しく健斗さんが嬉しそうにしていた。

「……おいしかったですか?」
「そ、それは人のお楽しみを奪って食ったアイスはうまかったのかという……?」
「ふふっ、違いますよ。純粋に味の感想を聞きたいんです」
「……今考えるといつもより濃厚で、お高い味がしていた気がします」
「そうですか。……今さっきまで食べていたんですよね?」
「そ、そうです。何も知らずに……」

健斗さんは腕を組みながら、あごに指を当てて考え込むように私の顔を見ている。
ばつが悪くて目をそらしていると、健斗さんの指が私のあごをくいっと持ち上げた。
それと同時に、健斗さんがキスをしてきた。
唇から口内まで、健斗さんの舌が優しくなぞっていく。
何かが何だかわからないままで、いつの間にか満足したらしい健斗さんの唇が離れていた。

「なっ、なっ……」
「……確かに普段食べているものよりは濃厚な気がしますね」
「まっ、まだ半分あるんだから健斗さんも直接食べればいいじゃないですか!」
「間接的に食べたほうがおいしいということもあります」
「ぐぅ……」
「まぁ、もともとなるみさんが喜ぶかなと思って買ってきたものですから食べていいですよ」
「……残りの半分、半分こしましょう」
「ふふっ、本当に食べていいんですよ?」
「健斗さんと一緒に食べたいんです~」

その後、ソファーでふたり並んで座って、本当に半分を半分こした。

「結構濃厚ですね。私は半分の半分でちょうどいいくらいです。でも、なるみさん本当に食べていて気付かなかったんですか?味の違いとか」
「私はおいしいとしか……」
「大味ですね」
「なんか悔しいからもう1回……今度一緒に買いに行きましょうよ」
「いいですよ。他にもいろいろとありましたからね。……それにしても」
「何ですか?」
「可愛いですね」
「なっ、何ですか、いきなり……」
「アイスを食べているときも可愛いですが、不意打ちでキスをしたときに真っ赤になるのも可愛いなと。もう何度もしているのに」
「ふ、不意打ちは心の準備がですね……」
「なら、今からキスをしますけど、いいですか?」
「い、いいですけど……」
「ふふっ、どちらにしても赤くなるんですね」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み