第26話

文字数 1,345文字

髪を切りすぎた。
中学生の頃、美容院でひどい髪型にされてしばらく学校に行くのが憂鬱だったことがあるけど、それに匹敵するくらい、いや、それ以上かもしれない……。
買い物とかで外に出る分には帽子をかぶればいいけど、これは健斗さんには見せられない。
本当は今日、健斗さんが家に来る予定だったけど断ろう。
というか、髪が伸びるまでしばらくは……。
健斗さんにしばらくは会えない旨をメールして、携帯をテーブルに置いたまま洗面所でどうにかマシな頭にならないかしばらく格闘してみた。
でも、どうにもならず。
意気消沈してテーブルのところへ戻ると、健斗さんからの着信がすさまじいことになっていた。
改めてメールの文面を見直すと、髪を切りすぎた部分を綺麗に忘れていて、何の説明もなしにしばらく会えないというだけの意味深なメールになってしまっていた。

「うぇっ、ああ、やばいやばい……」

電話をすべきか、メールにすべきか悩んでいると健斗さんから「今から行きます」というメールが届いていたことに気づく。
慌てて帽子を探して、見つけた帽子をかぶったその瞬間にチャイムが鳴った。

「は、はぁーい……」

玄関をおそるおそる開けると、健斗さんが立っていた。
仁王のような佇まいで。

「さっきのメールはどういうことですか」
「えっとですね……」
「……これから出かけるつもりだったんですか」
「えっ、何で?」
「……帽子をかぶっているので。顔を合わせたくないほど嫌われるようなことをしてしまいましたか、私は……」
「ち、違います!違います!全然違います!かっ、髪を切りすぎたんです!!」
「髪を切りすぎた……?」

健斗さんがひどく困惑しているので、帽子をほんの少しだけずらして短くなった髪を見せる。

「……短くなりすぎたので恥ずかしくって……髪が伸びて落ち着くまではと思って……」

何の反応もなくて健斗さんのほうを見ようと思ったら、その瞬間に抱きしめられていた。
同時に大きなため息が聞こえてきた。

「はぁ~……よかったです……」
「……何がですか?」
「私が何かしてしまったのかと思いました」
「そんなことあるわけないじゃないですか……」
「病気や怪我でなかったのも安心しました」
「心配かけてすみません……」
「では、見せてください」
「はい?」
「短くなりすぎたという髪を見せてください」
「えぇ~、いやですよ……」
「一度見せてしまえば平気でしょう?恥ずかしいからと会えなくなるほうが私はつらいんですが」
「うぅ~……」

でもよく考えたら健斗さんに会えないのは私もつらいわけで、結局、諦めて短くなりすぎた頭を見せることにした。
自分でもふてくされたひどい表情だったと思う。
健斗さんは表情を変えずに、私の頭を撫でてみたり、短くなった髪を触ってみたり。
最終的に私の両頬に手を添えて、ほっぺをぷにぷにとしてきた。

「……何ですか。もういっそのこと笑ってください」
「可愛いですよ」
「……気を遣わなくていいです」
「いえ、可愛いと思いますよ」

健斗さんの表情を見てみるといつも通りで、嘘をついている感じではない。

「髪が短くなると幼くなりますね。これはこれで私は好きですよ」
「……そうですか」
「ふふっ、これでしばらく会えないなんてことはないですね」

その後、健斗さんに頭を撫で繰り回されて、思いっきり愛でられた。
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