第14話

文字数 1,574文字

なんとなく甘いものが食べたい……でもさっぱりしたものがいい。
例えば、フルーツゼリーみたいな。
冷蔵庫を開けてみるとちょうどフルーツゼリーがあった。
梅とみかんが1個ずつ。

「健斗さん、私ゼリー食べようと思うんですけど、健斗さんも食べます?」
「ああ、いただきます。確か賞味期限も近かったですし」
「健斗さん、どっちがいいですか?梅とみかん」
「なるみさんはどっちがいいんです?」
「んー、強いて言うならみかんかな」
「なら私は梅で」

ふたりでまったりとゼリーを食べる。
食べ終わった後の容器をシンクに置いたとき、気づいた。
梅ゼリーの容器からはがしたフィルムに、『アルコール』という文字が印刷されている。
健斗さんはお酒にめちゃくちゃ弱い。
これ、やばいのでは……と健斗さんの様子を伺ってみるものの、見た目には変化はない。
私が様子を伺っているのに気づくと、健斗さんがふわっと笑って「なるみさん、こっちに」と言いながらいつものように膝を叩いている。
ソファーに座っている健斗さんと向き合うような形で膝に乗ると、健斗さんが私の頬を両手で愛おしむように包んだ。

「ああ、今日もなるみさんは可愛いですね」
「んん?」
「はぁ、本当に可愛い……」

抱きしめられて、頭を撫で繰り回される。
突然のことに頭が追い付かないけれど、ものすごい幸福感に満たされる。

「『好きすぎてつらい』という表現がありますが、まさにその通りです。困ったものですね」
「そ、そうですか……」
「私がいないときに誰かに嫌な思いをさせられていないか、変な男が寄ってこないか……仕事をしながらも心配で心配で」
「私、ずっと家で仕事してるんですから大丈夫ですよ」
「それでも心配なんです」

まぁ、酔っているんだろうなとは思ったものの、それ以上に嬉しすぎてニヤニヤが止まらない。

「その……健斗さんって私のこと、結構好きなんですね……」
「当たり前でしょう。朝起きたときにぼーっとしているところも好きですし、おいしそうにご飯を食べているところも好きです。それから……」

その後は健斗さんがいかに私を好きなのか、いかに私が魅力的なのかを延々と聞かされた。
さすがにベッドの上でのこういう表情がいいなんて言われると恥ずかしかったけれど、自分で気にしているところも健斗さんが好きでいてくれるのかと思うと嬉しさのほうが勝った。
そのうち、健斗さんは電池が切れたように眠ってしまい、私は起こさないようにそっと健斗さんの腕の中を抜け出した。
あまりにも嬉しかったので、今日は健斗さんの好物ばかりを並べてやろうと料理にとりかかる。
しばらくすると、健斗さんの体がぴくりと動いた。
お目覚めらしい。
背伸びをして立ち上がると、私の顔を見てぴたりと止まった。
私は私でニヤニヤが止まらなくて、たぶんにやけた顔をしていたと思う。
何秒か見つめ合った後で健斗さんは大きなため息をつくと、天を仰ぎながら顔を両手で覆った。

「はぁ~……私がお酒に弱いのは知っていますね?」
「もちろん、知ってます」
「……私は酔っている間の記憶もしっかりと残るタイプなんですよ」
「ほう、それは初耳です」
「……」
「じゃあさっきの、覚えてるんですね?」
「……ええ、覚えています」
「一般的には酔っ払ってるときの言葉って信じちゃダメなんでしたっけ?」
「……あいにく、私は酔うと本心が出てしまうタイプなので」
「んふふふふ~」

にやけたまま、健斗さんに抱き着きにいく。
胸に頭をぐりぐりと押し付けながら、嬉しさを噛み締める。

「健斗さん、好き!」
「私もなるみさんが好きですよ」
「普段あんまり聞けないことだからすごく嬉しいです」
「……普段から口にしていたら言葉が軽くなるでしょう」
「聞きたくなったら梅ゼリーを食わせればいいわけですね」
「ああ、また変な学習を……」

困った顔をしている健斗さんだけど、いつもより表情が柔らかかった気がする。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み