第24話

文字数 3,620文字

健斗さんと一緒に暮らすようになって結構経つ。
これまで円満すぎるくらいで何の問題もなくきたけれど、今回は私にとって初めての修羅場かもしれない。
もう1週間も健斗さんを地味に避けている。
一緒に食事をしたり、部屋でまったりしたりはするけれど、健斗さんが触れようとするとゆるやかに逃げて、キスも早めに切り上げる。
夜も断っている。
理由は……太ったから。
久々に体重計に乗って衝撃を受けた。
嘘でしょ……と前にお腹が緩かったキュロットを履いてみたら、見事にお腹が苦しくて。
改めて鏡を見たら、もともと丸顔なのによりいっそう丸くなっている気がした。
気づかなければよかったのだけれど、気づいてしまってからではもうどうしようもない。
健斗さんはそういう体の変化を冷やかすタイプではない。
でも、付き合うようになってから健斗さんは体型が一切変わらない。
ずっと引き締まった体でかっこいいまま。
だから、余計に並ぶのが恥ずかしくなるし、このだらしない状態を見られたくないと思ってしまった。
ただ、見られたくなくとも一緒に暮らしている以上はどうしようもない。
その結果、健斗さんを地味に避けるようになってしまった。
健斗さんもたぶんそれはわかっているのだろうけど、いつも通り接してくれて、それが余計に申し訳ないという意味のわからない悪循環に陥っていた。
ソファーに並んで座るときも前は私のほうから甘えるようにくっついていたのに、今は少し距離をあけて座っている。
私のせいなのだけど、並んで座るだけでも妙な緊張感がある。
今がまさにその状態。

「なるみさん」
「はい……」
「この1週間、おかしな態度をとっている自覚はありますよね?」
「……はい……」
「ちゃんと話をしましょう」
「う……」
「私、何かしましたか?」
「いえ……」
「体調が悪いんですか?」
「いえ……すこぶる元気です……」
「仕事で何かありましたか?」
「いえ……特に……」
「では、理由を教えてください」
「……ったんです……」
「えっ?」
「ふ、太ったんです……」
「……はい?」
「……」
「……今、太ったと言ったんですか?」
「はい……」
「太ったことと、この1週間のことが私の中でつながらないんですが」
「……太ったので健斗さんに見られるのが恥ずかしくて……」
「……はぁ」

健斗さんのほうを見てみると、うなだれて両手で顔を覆っていた。
自分でも呆れられるだろうとは思っていたけど、結果的に一番の悪手を打ってしまったのではなかろうか。

「……本当にそれだけですか?」
「へ?」
「私が何かしてしまったとか、体調が悪いとか、仕事で嫌なことがあったとか、他の理由は本当にないんですか?」
「な、ないです。本当に太っただけです……」
「あぁ……」
「だ、だって恥ずかしくって……」
「もっと恥ずかしいことをさんざんしているでしょう」
「そ、そういうのとは違うんです!……健斗さん、見た目も体型も全然変わらないじゃないですか。だから余計に私だけ太っちゃって恥ずかしいというか……」
「……まぁ、私はもともと体重が増減しにくいタイプですからね。……なるみさん」
「は、はい……」
「こちらへ」

そう言うと、健斗さんは自分の膝を叩いた。
いつものように膝に座れという合図。
その表情は少しお怒りのようで、有無を言わさない感じ。
もうここまで話してしまったわけだしと素直に従うことにした。

「お、重くないですか……?」
「あぁ~……」

質問に答えることなく、後ろから健斗さんが抱きしめてきて、私の肩に顔を埋める。

「……やっと触れられました」
「い、いや、それより重くないですか……?」
「大して変わりませんよ。それよりも1週間もあなたに触れられないのがつらかったです」
「そ、そうですか……」
「一緒に暮らしている恋人に1週間も家で避けられるなんてとんでもない拷問です」
「す、すみません……」
「まだ恥ずかしいですか?」
「え~、どうだろう……」

すると、健斗さんがまるでボディチェックのように服の上から私の体を確認し始めた。

「ちょっ、健斗さっ、ふふっ、やだっ、ひひひっ……」

腕や脇、お腹を触られて気持ち悪い笑いが出てしまう。
健斗さんはお構いなしに私の体を確認して、全身のチェックが終わったときには笑いすぎてひぃひぃ言っていた。

「はぁ……はぁ……何なんですか……くすぐったいじゃないですか……」
「あなたが太ったと言うので確認してみただけですよ。本当に大して変わっていないじゃないですか。もしかして体重計の数字だけで太ったと言っているんですか?」
「……服だってきつくなってたし、顔だって丸くなった気がしたんですもん……」
「ちょっとこっちを向いてください」

そう言われて、健斗さんと向き合うように座り直す。
健斗さんは私の両頬に手を添えて、ほっぺの肉をぷにぷにといじる。

「……な、何ですか?」
「顔も特に変化はないですよ。相変わらず可愛いです」

久々に健斗さんの顔を真正面から、それも間近で見て、泣きそうになってしまった。
避けていたのは自分なのに、本当に馬鹿だなと思う。
健斗さんに抱き着いて、今度は私が健斗さんの肩に顔を埋める。

「……ごめんなさい」
「何事もなくてよかったです。それにたぶん太ったんじゃないと思いますよ」
「え?」
「むくみだと思いますけど」
「あー……」
「ただのむくみを太ったと勘違いした恋人から1週間も避けられてつらい思いをした私の気持ちを汲んでくれる気はありますか?」
「うぅ……何でしょうか……」
「……このままベッドに行っても?」
「は、はい……」

そのまま抱き上げられて、ベッドへ。
服を脱ぎ終わったところで、健斗さんがまた後ろから優しく抱きしめてくれた。
首筋にキスをしながら、片方の手をお腹に回して、もう片方の手で胸を優しく揉む。
1週間ぶりの感覚にゾクゾクして、全身が粟立つ。

「寒いですか?」
「ち、違います。久々で……気持ちよくて、鳥肌立っちゃう……」
「ふふっ、そうですか」

首筋にちゅっちゅと音を立てながらキスを落としていき、両方の手で胸を持ち上げるように揉んで、先端をぐりぐりと弄ぶ。
かたくなっているのが自分でもわかって、余計に鳥肌が立ってしまう。
こりこりと乳首を弄んでいた右手がゆっくりと下へ這っていくと、今度は中指でクリトリスを容赦なく嬲る。
濡れてきたものを指ですくいとって、強めの力で円を描くようにクリトリスに刺激を与える。
呼吸が荒くなってきて、腰が勝手にびくびくと跳ねてしまう。

「あっ、やぁっ……」

いった後、思わず太ももをすり合わせるものの、健斗さんはクリトリスへの刺激をやめてくれない。
でも、さっきよりは優しく愛おしむような触れ方。
腰のほうには健斗さんの熱いものが当たっていた。
後ろに手を回して、健斗さんのものに軽く手を触れる。

「……健斗さん、して……」
「……いいですよ」

そう言うと健斗さんは私を優しく寝かせてくれた。
すり合わせていた太ももを無理やり開き、健斗さんのものがあてがわれる。
何度も何度も経験しているのに、1週間ぶりだからかいつもよりも大きく、熱く感じられた。
健斗さんに見下ろされながら健斗さんのものを受け入れて、あっという間にいってしまった。
私がいった後、すぐに健斗さんも私の中で果てた。
つながったまま、健斗さんはぼすんと私の肩に顔を埋めた。

「あぁー……幸せです……」
「ふふふっ、大袈裟ですよ」

私がそう言うと、健斗さんが顔を上げて私の顔を見据えた。
少し乱れた髪とまだ落ち着いていない呼吸が色っぽい。

「この1週間、いろんな可能性を考えました」
「いろんな可能性って?」
「体が悪いんじゃないかとか、仕事で嫌な思いをしたんじゃないかとか」
「ふふふっ、さっきも言いましたけどないですよ」
「知らないうちに私があなたの嫌がることをしてしまったんじゃないかとか、その……毎日のようにしていますけど、私が自分で思っている以上に下手であなたに無理をさせていたんじゃないかとか、あなたに他に好きな人ができてしまったんじゃないかとか」
「なっ、ないです!それは絶対にないです!」
「あなたに別れを告げられて、これから先の人生をどう生きていけばいいのか……あたりまでは考えました」
「なんか……私も泣きそうになるんですけど……」
「それくらい私にとっては大変な1週間だったんですよ」
「ご、ごめんなさい……でも私、健斗さん以外に好きな人ができるなんて絶対にないです。私から別れるなんて言うのも天地がひっくり返ってもないです。健斗さんがいない人生とか、私のほうが無理……」
「ふふっ、そうですか」
「今まで嫌だったこととかひとつもないです。あと……その下手とかそんなこと全然なくて……」
「……ほう」
「わ、私としては毎回……すごく……いいです……」
「それは何よりです。ああ、幸せなので今日はもう少し付き合ってください。それと」
「それと?」
「次からは何かあったらちゃんと話してください」
「ふふっ、はぁい」

健斗さんは優しく微笑むと、唇にキスを落とした。
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