第16話

文字数 2,862文字

「なるみさん。明日から5連休ですけど、その中の1日だけ朝から晩まで私にくれませんか?」
「へ?別に1日だけじゃなくて、5日全部あげますよ」
「いえ、1日でいいです。5日全部だとあなたがもたないでしょうから」
「もたないって登山かなんかするんですか?」
「いえ、したいんです」
「……一応聞きますけど、したいというのは?」
「あなたを抱きたいということです」
「あ、朝から晩まで……?」
「ええ、もちろん、あなたが嫌なら無理強いはしません」
「い、いいですけど……」

そんなやり取りをしたことを完全に忘れてしまった翌朝、うっすらと目が覚めて、いつものように隣に健斗さんがいるかを確認する。
すぐに健斗さんの体に手が当たって、ほっとしながらまどろんでいると耳元で「おはようございます」と優しい声が響いた。
「おはようござ……」と私が言いかけている途中で、口をふさがれてしまった。
軽いキスではなく、深い深いキス。
ぼーっとしている頭が余計にぼーっとして、「ああ、幸せ……」と夢心地になる。
そのままキスが首筋に移って、健斗さんがベッドの中にもぐりこんでいく。
中でそのままあれよあれよと脱がされて、敏感なところを健斗さんの舌が這う。
クリトリスを口内で嬲られて、中を指で刺激されるとあっという間にいってしまった。
快感と疲労感で少しずつ目が覚めてくる。
ベッドから顔を出して、私の横に寝直した健斗さんは楽しげだ。

「えっち……」
「昨日約束したでしょう?朝から晩までと」
「確かにそうですけど、朝ご飯もまだなのに……」
「朝食の前にもう少し楽しみましょう」

そのままベッドから起き上がる前に何度もいかされて、目は覚めているのに快感で頭がぼーっとしている状態で朝ご飯を食べることになった。

「健斗さんの作る朝ご飯、おいしい……」
「それはよかった。まぁ、運動後なのもあるでしょうけど」
「……その……朝ご飯食べたらすぐにまた……?」
「いえ、食後は休憩が必要ですから」
「そ、そうですか」
「ふふっ、休憩なしがよかったですか?」
「ち、違います!」

朝ご飯を食べた後、いつものようにふたり並んでソファーに座り、健斗さんに甘える。

「健斗さん」
「何です?」
「なんで突然朝から晩までしたくなったんですか?」
「……」
「理由教えてくれないといろいろしますよ」
「いろいろですか、それは困りましたね。……結構前ですけど、お互いに前に付き合っていた人のことを話したでしょう?」
「あー、街中で土下座されて、しょうがないから折れて付き合ったら『完璧すぎてつまんない』って3日で振られた話ですね」
「……よく覚えていますね」
「当たり前ですよ。健斗さんを振るなんてあり得ないですもん」
「ふふっ、そうですか。そのときに、お互い夜の話もしましたよね」
「しましたね」
「……そのですね、なるみさんが前に付き合っていた人に丸一日前戯でいかされたという話が私にはなかなか衝撃で」
「そ、そういえばそういうこともありましたね……」
「もちろん、いろいろあったんでしょうが、そのエピソードが出てくるということはなるみさん的にもそれが記憶に残っているのかなと思いまして」
「ほう、それでしてみたくなったんですか?」
「したいのはしたいんですが、その……私で上書きしたいなと」
「上書き?」

健斗さんの顔を見てみると、苦そうな、それでいて恥ずかしそうな、なんとも複雑な表情をしていた。

「言い方はあれですが、昔の男を思い出してほしくないんですよ」
「ふふふふふっ……」
「……何ですか?」
「いや、私、健斗さんと付き合うようになってから元カレの存在とか完全に忘れてたなと思って。健斗さんのことばっかり考えてますよ、私。もし健斗さんと別れるようなことがあったら、それこそ他の人と付き合うことになっても健斗さんのことずっと思い出してると思います。あ、昔、そんな歌がありましたよね」
「……私はあなたを手放すつもりはないので」
「そうじゃないと私も困ります。で、結局、元カレとした印象的なプレイを健斗さんが上書きして、健斗さんしか考えられない体にしたいんですね?」
「まぁ、そうなりますけど……その言い方はちょっと」

その後、食後もう十分休んだからとそのままベッドに行って再開。
ただ一方的に前戯でいかされるだけの時間。
あっという間にお昼になっていた。
まだ昼というのが信じられないくらい体は疲れていた。
健斗さんの作ってくれたお昼ご飯を食べ終わって、また食後の休憩。

「……私、すでに体がもたないんじゃないかと不安なんですけど」
「ふふっ、そうですか」
「楽しそうですね」
「いえ、余裕がなくなってきた表情は興奮するなと思いましてね」
「変態」
「まぁ、本当にダメなときとそうじゃないときくらいはちゃんと見極められる自信がありますから安心してください。本当はダメじゃないのにダメって言いますからね、なるみさんは」
「……あの」
「何ですか?」
「今日は……その……私は晩ご飯抜きでもいいですよ……」
「ほう、嬉しいですね」

お昼の食後の休憩が終わってからの健斗さんはすごかった。
休憩はさせてくれるけれど、容赦なく強制的にいかされてしまう感じ。
しかも、私が人生で初めて連続でいってしまったものだから、いった後も何度も何度も休憩なしでいかされてしまう。
「こんなの初めて」なんて台詞は男を喜ばせるためだけのものだと思っていたけど、そう言いたくなるような快感もあるものなんだなと妙に感心してしまった。
気づけば夜もそこそこの時間になっていて、私は健斗さんに抱き起こしてもらわないと起きれないくらいになっていた。

「ふふっ、すごかったですね」
「あの……今さらですけど」
「何です?」
「とっくの昔に上書きされてますし、その……元カレとは比較にならないくらい気持ちいいです……」
「……このタイミングでそれを言いますか。止まらなくなるじゃないですか」
「あと……」
「あと、何です?」
「最後までしてほしい……」
「……いいですよ」

そう言うと健斗さんはまた私を押し倒し、ぱんぱんになっているそれを入れてくる。
指よりもだいぶ太いそれが入っただけで背中が弓なりになる。

「あっ、あっ、健斗さんの……気持ちいい……」

自分でも普段はこんなこと絶対に言わないのに、自然と口に出てしまった。
健斗さんは少し驚いた表情をした後、優しく微笑んで、その微笑みとは見合わないほど激しく腰を打ち付けてきた。
本当に健斗さんの背中に傷をつけてしまうんじゃないかというくらいに強く抱き着いて、今日一番の快感にのみ込まれた。

「はぁ……健斗さん、好き……」
「ふふっ、だいぶしおらしくなりましたね」
「……なんか今日、恥ずかしいことばっかり言ってる気がします。明日の朝になったら後悔しそう」
「このまま朝まで続ければ後悔せずに済むんじゃないですか?」
「え~、死んじゃう……でも」
「でも?」
「……明日もしたかったらしてもいいですよ」
「……そう言ったことも明日後悔するんでしょうね。なるみさん、好きですよ」

そう言われて幸福感に包まれたまま、私はそのまま意識を手放したのだった。
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