変化
文字数 2,545文字
俺の夏休みは、結局鑑賞会を毎日して終わってしまった。もはや、気になった作品を一通り見尽くしたといっても過言ではなかった。
舞佳もずっと付き合ってくれ、毎日2人で鑑賞会をしていた。舞佳も一緒に楽しんでくれていたようだった。
(でも、どこかよそよそしかったなぁ……)
俺が気になったのは、舞佳の態度や表情だ。話すことは今まで通りできるのだが、今までよりも少し距離をとられたり、目が合わないことが増えたりしていた。
(やっぱり、ソファの1件だよな……)
俺は色々原因について考えたが、結局態度がよそよそしくなった理由は分からずじまいだった。
(また元通りにならないかなぁ。ちょっと距離が近すぎたのかな……)
あの時、無理やりにでも手を剥がしておけば、こうはならなかったのではないか。と思いつつ、俺はリビングの掃除をしていた。
今日は日曜日。舞佳は体調がよくなり、アルバイトへ行っている。俺は明日から会社で、今日が最後の夏休みだった。
(……あっ、そういえば、花火を見に行く話もしていたな。近くで花火大会やる予定とかあるかな)
俺はスマホで花火大会の情報を調べる。すると、来週に隣駅で花火大会の予定があるのを見つけた。
(毎年お盆過ぎ頃になると聞こえてくる花火の音は、ここでやっているものだったか……よし、これに行ってみるか)
俺はスケジュールに花火大会の予定を入れた。後で舞佳に予定を確認をしてみよう。一緒に行ってくれるか少し気がかりだが、とりあえず聞いてみようと思うのだった。
*
私は久しぶりにアルバイトへ来ていた。体調はすっかり良くなり、体を動かす分には何も支障を感じない。むしろ、しっかり休んだおかげで、前よりも体が軽い感じがする。だが、精神面では少し問題があった。
(あ~どうしよう。集中できないよ~)
私は数秒に1度は、健さんのことを思い浮かべてしまうようになってしまった。なぜこうなったかというと、この前ソファで寝落ちした時に見た夢が原因だ。私が見た夢とは、健さんと抱きしめあい、濃厚なキスをするものであった。私は夢の中でとても興奮してしまった。それで目が覚めると、目の前に健さんがいたので、取り乱してしまった。
その後も、健さんを見ると、その夢のことを思い出して恥ずかしくなり、健さんを直視できなくなってしまった。鑑賞会の時に見ていた映画の中には、ヒロインの子が主人公に恋しているシーンがあり、見ていた時はあまり共感できなかったが、今では共感できてしまう。
(これが恋なのかぁ……うわぁどうしよぉ///)
そんなことを思いつつ、私は仕事をこなしていった。
*
仕事が終わると、健さんから一通の連絡が来ていた。急いで確認すると、
『来週に隣駅で花火大会があるみたいだけど、一緒にいく?』
お誘いの連絡だった。私は嬉しさでいっぱいになる。私はとりあえず返信をしようと文面を考えるが、いい返事が思いつかない。
今までだったら、『いいですね。いきましょう!』とかで返していたところだが、今は少し特別感を出したいような気もする。
『お誘い頂き嬉しいです♡ぜひ一緒にいきましょう!楽しみです♡』と返そうと思いつくが、流石に好意が露骨過ぎて恥ずかしい。
内心はこう思っている訳だが。色々考えている内に、最初に思いついた文面が無難だと思い、その内容で送信した。
ため息とともに、スマホを消して、私は家へと帰っていった。
帰りながら花火のことを思い浮かべていると、私はある作戦を思いつく。
(……そうだ。花火行った日の夜に健さんにプレゼントしよう。サプライズで。何にしようかなぁ……)
私はプレゼントについて考え始めた。人にプレゼントをあげたことが無かったので、こういう時どういうものを送るのがふさわしいか分からない。スマホとかで調べれば、いい答えが出てくるのだろう。しかし、なんとなくこのプレゼントは、私が考えて選びたいと思った。
(健さんは、どういったものをもらったら喜んでくれるかな?なんだかんだまだ知り合ったばかりで、そういうことも分からないや。でも、どこかにヒントがあったはず)
私は、今までの健さんとの会話や、部屋に置いてあるもの、手がかりになりそうなものを懸命に思い出す。それから普段身に着けているものとか――
(そういえば、会社に持って行っているカバン、だいぶ古くなっていたような。新しいのをプレゼントするのがいいかもしれない)
私はそう思いつくと、早速家に帰って調べようと決意した。
*
家に到着し、リビングへ入ると、健さんがおかえりと挨拶をしてくれる。私はただいまと挨拶を返した。だが、目を合わせることはできず、少し下を向きながら挨拶した。
私は花火大会のことを思い出し、誘ってくれたことに感謝するべく健さんに話しかける。
「あの。花火大会の件、ありがとうございました。バイトは休めそうなので、一日空けられると思います」
「おぉそうか!よかった。俺も久しぶりに花火見に行くから楽しみだな!」
健さんは笑顔でそう答えた。私も「すごく楽しみです!」と言おうとしたが、なんか照れくさくてそう答えられず、そのまま流してしまった。
「お風呂入ってきます!」
私は少し気まずいのを誤魔化すため、風呂場へと逃げていった。健さんの顔をちらっと見ると、釈然としない表情でこちらを見ていた。
(うわぁ。今の私ってすごく挙動不審だよね……なんで素直に言葉が出ないんだろう)
私は、恋心への向き合い方が分からず悩んでいた。なんで、こういう態度を取ってしまうのか分からなかった。……いや、なんとなく自分の中ではこうなる原因については心当たりがある。それは素直になるのが怖いということ――もし、素直に自分の好意を伝えた時に、健さんに拒絶されたらどうしようと考えてしまう。私は今の関係性を崩したくない。それが怖くて素直になれない。ただその一方で、前に見た夢のように健さんと一歩進んだ関係になりたいとも思っていた。こうした2つの気持ちの間で私は葛藤しており、どうしていいか分からず、ただ悩んで挙動不審な行動をとってしまっているのだ。
(なんか一緒にいるのが少し辛いな……一緒にいたいけど)
風呂で体を流しながら、私はそう思うのであった。