頑張らなきゃ

文字数 2,929文字

「お疲れ様でした~」
 私は今日でアルバイト5日目、だいぶ仕事にも慣れてきて気持ちに余裕がでてきた。
「お疲れ~。安西さん、自分の仕事はだいぶ慣れてきたね。次回からちょっとずつ新しいことにチャレンジしていこうか」
「わかりました!頑張ります!」
 私は元気よくそう答えた。店長は結構アルバイトの様子を気にかけてくれているようで、割と些細なことにも気づく。私の仕事ぶりについても見てくれていたみたいだ。
(やった。店長に評価されている感じがする。明日からもまたがんばろ!……それにしても後4日で北海道かぁ。楽しみだな~)
 日に日に近づいてくる北海道旅行を、楽しみにせずにはいられない私だった。

 *

 家に帰ると、健さんが先に帰っており風呂場の掃除をしてくれていた。
「ただいま~」
 と私が挨拶すると、
「おかえり!」
 健さんは風呂場から顔をだして挨拶を返してくれる。前の家の生活では考えられないことなので、こんな些細なことにも嬉しく感じてしまう私だった。
「今日もオムライスに挑戦してもいいですか?」
「いいよー!」
 私は以前健さんと行ったオムライスの味が忘れられず、あの味を再現するべく何度かオムライスを作っていた。毎回卵のふわふわ感を再現するところがなかなかうまくいかない。
(今日こそは……)
 私はスマホで調べてきたふわふわになる方法を見ながら、今夜も挑戦してみた。

「お、だいぶふわふわしていて店の味に近くなってきたんじゃない?おいしいよ!」
 健さんは驚きの表情でそう言った。
「今回はネットで調べたやり方を真似したら割とうまくいきました。……ここ最近オムライスになってしまってごめんなさい」
「いやいや、オムライス好きだし全然いいよ!毎回少しずつ成長を感じられて飽きないし」
 健さんはそう言ってにっこりと微笑んだ。私はその笑顔とオムライスがうまくいったことの達成感で嬉しい気持ちでいっぱいになる。
「よかったです!これからも頑張ります!」
 私の決意を健さんは温かく見守ってくれる。私はこんなに幸せな気持ちでいいのかなと思いながらオムライスを頬張った。
 
 私は夕食を食べ終わってからは、自分の部屋で眠りにつく準備をし始めた。明日もまた午後からシフトが入っているが、午前中は特に予定が無いので、目覚ましはかけずにゆっくり起きるつもりだ。
(今日寝たらあと3日か……楽しみすぎるな!)
 私は北海道旅行のことを頭でシミュレーションしながら眠りに落ちた。

 次の日、朝起きるとなんとなくいつもと体調が違うような感覚がした。
 のどが少し痛く、なんとなくぼーっとする感じがする。
 布団から出てみるとだるさを感じたが、いつも通り立ち上がることはできた。
(冷房で喉を傷めちゃったかな……まぁ全然動けそうだし大丈夫かな……)
 体を動かす分には問題なさそうだ。なので、私は喉を傷めただけだと思った。いつも通り部屋の掃除などの家事をするべくリビングへ移動した。
 それから一通り家事を済ませて午後になると、私はバイトの支度をして家を出る準備をし始めた。今日も気温が高くなると聞いているので、飲み物を多めに持つ等の熱中症対策をしてから、家を出た。外へ出ると、予想を超えてくる暑さと日差しが私を襲ってくる。
(今日はいつもに増して暑いなぁ……早くバイト先に行って涼みたいな)
 私は強く降りかかる日差しから逃げるようにして、バイト先へ向かった。
 今日のアルバイトは昨日聞いていた通り、新しい仕事を覚えつつ今までやってきた仕事も並行してやるといったものだった。教えてもらいつつ、順調に仕事をこなしていった。そして、仕事終わる1時間前に差し掛かった時だった。ホールの方がバタバタしている様子で、注文が大量に入り始めてきた。
「えー、急に注文きすぎでしょ」
 他のスタッフも異変を感じたようで、不満をもらしつつ仕事に集中していく。私は今までやっていた業務を専念することになった。
 そこからは息つく間もなく、ただ手を動かし続けた。店長もヘルプとして仕事に入ってくれているが、まだ手が足りない様子で厨房のスタッフは全員忙しなく動いていた。やっと落ち着いたのは、私の仕事終わりの時間から30分過ぎていた時だった。
「安西さんお疲れ様~。今日は残ってくれて助かったよ!タイムカードは今のタイミングで切ってね。予定を超えた時間については割増で給料に計算しておくから。今日はありがとね」
 店長はそう感謝を述べた。私は軽く返事をしてタイムカードを切った。
「安西さんは明日出勤したら5日間お休みだったね。明日もよろしくね~」
「はい……お疲れ様でした」
 私は元気を振り絞り挨拶をしてから、事務室を後にした。事務室を出ると、今日の疲れが一気に襲ってきた。夕方になってもいまだに蒸し暑く、私の残り少ない体力をさらに蝕んできた。
(すごく疲れたなぁ……早く家帰ってお風呂入りたい)
 私は残る体力を振り絞り、家へと向かった。
 家へ帰ると、いつもは健さんが帰ってきている時間だったが珍しく帰ってきていなかった。スマホを確認してみると、今日は少し帰りが遅くなるとの連絡がきており、夕食は先に食べていてくれとのことだった。
 私はリビングに着くと、一休みするためソファに腰掛けた。冷房をつけて涼んでいると急に眠気が襲ってきた。
(汗かいてるし風呂入らなきゃ。でも風呂掃除しなきゃなぁ……)
 私はそう思いながらも、襲いかかる眠気に打ち勝てず、そのまま目を閉じた。

 *

「……おい!舞佳大丈夫か!……おい!」
 私は体を揺さぶられていることに気づき目を覚ます。すると健さんが心配そうな表情で肩を掴んで声をかけていた。
(……あっ。私あのまま寝ちゃったんだ。……早く起きて夕食の支度をしなきゃ)
 私はそう思い上体を起こそうとするが、うまく力が入らない。
「めっちゃ顔赤いぞ。……ちょっとおでこに手を当てるぞ」
 健さんがおでこに手を当てて私の熱を確認している。
「結構熱ありそうだな。体温計を取ってくるからこのまま待っててね」
 健さんが急いで私から離れていく。
(そのまま寝ちゃったから体調が悪化したんだ……まずいなぁ。明日もバイトあるし、3日後には北海道旅行があるんだから、こんな時に体調悪くしてる場合じゃないのに……)
 私は無理やり体を起こし立ち上がる。そうしていると、健さんが体温計を持ってリビングに戻ってきた。
「舞佳何してるんだ!安静にしてなきゃ!」
 健さんは私に座るよう促している。私は全身に襲いかかるだるさを我慢してから
「大丈夫です……寝起きで少しぼーっとしていただけです。熱っぽいのは今日暑い中外を歩いていたからだと思います。なので大丈夫です。熱なんてありません」
 懸命に自分が体調不良でないことを訴えた。しかし、立ち上がっている間にもめまいとだるさが
私を襲い続けていた。
「……とりあえず熱測ってみよ。何もなければそれでいいしさ」
 健さんはそう言って私に体温計を渡してくる。私は熱を測ったらもう言い訳できないことが分かっていたので、受け取ることを拒んだ。しかし、体力はもう限界だったので、倒れ込むようにソファへと寄りかかり、また眠気が襲ってきたので私は抗えず目を閉じた。
 

 
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