青あざ

文字数 1,711文字

17時15分――終業を知らせるチャイムが鳴る。俺はいつも通り素早く帰る支度をして会社から抜け出す。昨日の物音について、アパートの管理会社の電話番号とか調べとかなきゃなと思いスマホで検索しようとするが、管理会社の名前をド忘れしていたため、家に帰ってから調べることにした。
 最寄りの駅に到着して帰り道を歩く。公園の前に差し掛かると昨日と同じベンチに少女が座っていた。昨日と同様空を見てぼんやりとしているみたいだ。ベンチのそばを通り過ぎる時に少し注意深く(気づかれないように)少女の様子を見てみた。
 (角度的に背中から見る形になるが)首のところに青あざがあるのに気づいた。
 (……痛々しいな)
 そのまま通り過ぎながら色々と考え始める。
 (物音は両親からの虐待?……いや、最近の怪我でない可能性も……ただ、虐待だとしたら見過ごせないな……なにか証拠があればいいのだけど)
 他にも色々と考えているうちに家に着く。

 シャワーを浴びている時も少女の青あざが頭をよぎる。あまり気にしても意味ないことだと思いつつ、もし放置して少女が自殺をしてしまったら、などと考え始めると気になってしまう。なのでまずはネットで調べてみることにした。早速「虐待 証拠」で検索してみる。すると、【近所の人から子供の叫び声を聞いたという証言】が証拠として認められるケースがあると書いてあった。
 (これ俺の証言が証拠とすることができるのか?……いや、叫び声よりも物音がメインだし、声は少女のものではなさそうだしな)
 他にも関連した内容を調べるが、今の状況で虐待に持っていくのは難しそうだと思った。ただ、証拠として録音データはかなり有効なものとされていたので、物音を録音しておくのはいいかもしれない。大体いつも物音が聞こえてくるのは夜8時頃。あと30分くらいだ。
 (……一応録音しておくか)
 夜8時になり、スマホでいつでも録音できるよう心構えをしつつテレビを見ていることにした。すぐ物音が聞こえてくるわけでもなかったので、意識が徐々にテレビの内容に向き始めていた。その時「ドン」と鈍い音が隣の壁側から響いてきた。
 (……始まったか)
 スマホの録音アプリを起動して録音の開始ボタンを押す。隣の家の壁側にスマホを置いてからテレビの音を消し、なるべく物音を立てないようにした。すると、何を言っているかはわからなかったが、高めの声が聞こえてきた。そのあとに、声と物音がしばらく続いた。しばらくして、音がしなくなってから5分くらい経ったところで録音を停止した。録音がしっかりとできているか確認するため、データを再生してみる。実際に聞いてみると、物音と声の部分はしっかりと録音できていた。声は何と言っているかまではわからなかったが、何か怒っている声であることは分かった。
 (……ここからどうするかだな)
 改めてネットで「虐待 通報」と調べてみると、ホットラインの電話番号が出てきたり、児童相談所のことが出てきたりした。
 (実際通報した後はどうなるんだろう)
 続いて、「虐待 通報 その後」で検索し直してみる。今度は、虐待発覚後の児童相談所の動きについて記載されているページを見つけたので確認してみる。一通りざっと目を通してみたところ、虐待の状況によって一時保護をするかどうかが決まるみたいだ。そこで、現在の状況に当てはめてみたが、今回のケースだと一時保護してもらうのは難しそうだった。一時保護になるための重要なポイントは【当事者が保護を求めているか】という点だからだ。
 (保護してもらうのが本人のためにはなると思うが、本人の意思を確認してみないことには通報が無意味になってしまうな。むしろ、ここで通報したら虐待を加速させてしまう可能性すらあるな)
 少女の意思を確認したいところだが、今まで話をしたことがないので、どう接触するか悩む。
 (急に話しかけても警戒されるよな。だが、しっかりと本人の話を聞いておきたいし、何かいい方法はないものか)
 こればかりは、ネットで調べてもどうしようもないことなので、自分の頭で考えてみるが特にいいアイデアは思いつかず。俺はそのまま眠りに落ちた。
 
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