にゃー!

文字数 2,576文字

「あれ、いない!!」
 俺は仕事終わりにすぐさまいつもの公園に向かうが、ベンチに少女はいなかった。
 (昨日のことで警戒させちゃったか……くっそ~やりすぎたかなぁ)
 公園で次なる作戦を決行しようとしたが失敗に終わり、あきらめて公園を去ることにした。少しガッカリしながら家へ向かっていると見覚えのある背中が前を歩いていた。あの少女だった。俺はこのチャンスを逃すまいとして少女に駆け寄り声をかけた。
「すいません、ちょっといいですか?」
 少女は少し驚いた様子でこちらを振り返る。
「あぁ、昨日の人でしたか……また何か用ですか?」
 ちょっとうんざりした感じだった。俺は勇気を振り絞り作戦を決行した。
「駅の近くのファミレスが期限限定のパフェをやっているんだが、一人で行く勇気がないんだ。頼む俺と一緒にファミレスに来てくれないか?」
「……急になんですか。一緒に行く友人とかいないのですか」
「……そういった友人はもういないんだ」
「なんですかそれ、だから私を誘うんですか?変な人ですね」
「……うぅ、その通りだな、急に失礼しました」
 俺はいたたまれなくなり立ち去ろうとしたその時だった。
「私でよければいいですよ」
 聞き間違いだと思った。少女のほうへ振り向くと
「お金は持っていないので同行するだけにはなりますが、それでよければ」
 少女はそう確かに言った。
「ホントにいいの!ありがとう!!おごるから心配しないで!」
 俺は心の底から喜びながらそう答えた。
「駅の近くのファミレスなんだけど、このまま行く?それともいったん家に帰る?」
「このままで大丈夫です」
「おっけー、じゃあついてきて」
 俺は少女を先導してファミレスに向かった。
 ファミレスに入店するとウェイトレスがこちらに気づいて近寄ってきた。
「いらっしゃいませ~2名様ですか~」
「2名です」
「では、こちらへどうぞ~」
 慣れた所作でウェイトレスは席まで俺らを案内していく。少女の様子を見ると、何か物珍しそうに色んなところに目をやっている。
 (もしかして、最近の子はファミレスとかあんまり来ない感じか)
 席に案内され座る。少女も座るが、なんとなく落ち着かない感じで辺りを見回している。
「もしかして、ファミレス初めてだったりする?」
「あ……いえ、そういうわけではないのですが、久しぶりだったもので、色々変わっているなと思いまして、あのロボットは以前いなかったと思います」
 少女の視線の先には、顔が猫型の縦型のロボットがある。確かにここ最近になってよく見るようになった気がする。
「確かに以前は無かったな。あのロボット結構可愛げがあって面白いぞ」
「可愛げ?」
「まぁ、後で料理運んできた時にわかるよ。あ、そうそう、メニューから好きなの頼みなよ。夕飯奢るからさ」
「家にご飯あるので遠慮しときます。……でも、このポテトだけ注文していいですか?」
 メニュー表を眺めていた少女はスタンダードなポテトフライを指差した。
「そっか。わかった!頼んどくね。俺は夕飯食べちゃうけど時間は大丈夫?」
「えぇ、6時30分までにファミレスをでれば大丈夫です」
 タブレットからメニューを注文して一息つく。俺と少女の間に少しの沈黙が続く。気まずい感じがしたので俺はそれを振り払うように話し出した。
「そういえば自己紹介をちゃんとしていなかったね。俺の名前は藤村健、普通の会社員として働いているよ。よろしくね」「私は、安西舞佳(あんざいまいか)高校1年生です。よろしくお願いします」少し幼い感じだったので中学生かもと思っていたが、高校生だったか。なんとなく大人びた感じもしたのでそんな違和感もない。
「高校に入ってまだ2ヶ月半くらいか、高校生活には慣れた?」
「まぁ、それなりには……」
「……そっか。楽しい高校生活になるといいね」
 なんとなく少女の様子から、高校生活を満喫している感じではなさそうだったので、違う話題を探していると
「ご注文の料理を持ってきましたにゃー!」
 いつのまにか机の隣に猫ロボットが来ていた。どうやら、ポテトを持ってきたようだ。急いでロボットからポテトを受け取り、安西の方へ置いた。安西をみると口に手を当てている。
「どうしたの?」
「いえ、たしかに可愛げのあるロボットだなと。ニャー!って……」
 どうやら静かに笑っていたようだ。この猫ロボット、結構勢いよくニャーっていうもんだから俺も最初聞いた時はつい笑ったな。
「思ったよりポテトが早くきたな。先食べちゃっていいよ〜」
「ありがとうございます。いただきます」
 安西はフォークを手にしてポテトを食べ始めた。あんまりじっと見てると食べづらいだろうから、メニュー表に目を移す。また沈黙が続いたので少し安西の様子をみると、結構な勢いでポテトを食べている。
「おいしい?」
「……はい」
「そっか」
 控えめに答える安西だったが、勢いよく食べる姿と矛盾しており、そのギャップが少し面白い。
「ご注文の料理を持ってきましたにゃー!」
 元気な機械音声が、俺のハンバーグ定食を持ってきたことを知らせる。安西は、まだこの「にゃー!」に慣れていないようで、ポテトを食べる手を止め、静かに笑いをこらえている様子だった。俺はハンバーグ定食を自分のところに置き、フォークとナイフを取り出し食べる準備を進めていると何か強い視線を感じた。ふと、安西の方をみると、安西は俺のハンバーグを凝視していた。
「……少し食べるか?」
「……いえ、家にご飯がありますので……」
 明らかに食べたそうにしているはずだが、言葉ではその気持ちと逆のことを言っているように見える。
 (さっきから行動と発言が矛盾しているの面白いな。我慢強いけど、行動まで隠しきれない感じか)
 そんな分析をしつつ、ハンバーグ定食を食べすすめていると、チラチラ安西がこちらのハンバーグを見ているのに気づいた。
「ほんとに少し食べなくていいのか?別に俺は気にしないぞ」
「……いえ、大丈夫ですので」
 そう言って安西はまたポテトに集中し始めた。
 (ずいぶん我慢強いことだな。この強さが虐待を許しちゃっているのかな)
 少しずつ安西のことが分かり始め、俺は安西が虐待を我慢しているではないか?という考えが確信に変わり始めた。ポテトを食べ終わった安西は満足げな顔をしている。一息ついたところで俺は本題を切り出した。
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