祝勝会
文字数 2,610文字
俺らは特に話すことなく自分の家のリビングに帰ってきた。
お互い椅子に座ると安西が静かに話始めた。
「……私、こんなに怒りに任せて話したの初めてです。途中から自分でも何を言っているのか分からなくなっていたのに、言葉だけ止まらなかった……汚い言葉が止まらなかった。こんなんじゃあの母親と同じだ……」
安西は涙をポロポロ流す。俺は声をかえずにはいられなかった。
「安西さんがあんな母親と同じ訳がない。あの時言っていた言葉は全部正しいよ。俺もそう感じてた。だから気にするな」
俺は安西の頭をそっと撫でてそう言った。安西の目からさらに涙が止まらなくなった。
『……おーい』
なんかかすかな声がポケットの方から聞こえる。スマホを手に取ってみると
『……おーい、おおーーい。聞こえるかぁ。まだ俺がいるぞぉー』
松本と通話中になっていた。すっかり忘れていた。
「ごめんごめん。すっかり忘れてたよ。協力ありがとな。じゃ」
『ちょっとまてい』
電話切ろうとするとそれを止められた。
「……まだ何か用か」
『そんなに邪見に扱わなくてもいいじゃんかよ。俺にも少し感想言わせてくれよ』
俺は仕方なくテーブルにスマホを置きスピーカーに切り替える。
『いやーやるじゃん健。聞いてるだけだったけどなんかドキドキしちゃたよ』
通話越しの音声が部屋に響き渡る。安西も気づいて俺のスマホの方を見つめる。
『舞佳ちゃんもお疲れ!いや~頑張ったね。あの母親にガツンと言ったところは痺れたよ』
「……あんなことを言うつもりは無かったのですが……」
『健がさっき言ってたとおり、言って当然のことだったと俺も思うぞ。そのくらい言われて当然のことをしてたんだからあの母親は』
「あっ……ありがとうございます」
『てか、俺自己紹介まだだったよね。俺は松本裕樹。健とは高校からの友達だ。よろしくな』
「はい。よろしくお願いします」
安西は俺のスマホにぺこりとお辞儀をする。その光景を見た俺は少し笑ってしまった。
『健のやつなんで笑ってるんだ』
「たまによく分からないところで笑いますよね」
『昔からそうなんだよ。変な奴だよな』
松本と安西が意気投合し始める。俺は慌てて止めに入る。
「安西さんがスマホにお辞儀している姿に笑ったんだよ。見ててちょっと面白かったんだ」
「……そんなに変でしたか」
安西は不安そうに尋ねた。
『いや、変じゃないよ。変なのはこいつだから』
「……」
俺は言い返したかったが、言い返すことで安西を変な奴扱いすることになるため何も言い返せなかった。
『ま、なんにしてもこれで一件落着ってところか』
「そうだな、改めて協力ありがとな」
『いいってことよ!あ、でも今度飯奢ってくれ』
「しゃーねぇな」
『今のも録音されてるから忘れるなよ!じゃ、お二人とも仲良くな』
松本はそう言うと通話が切れた。
*
通話が終わると安西は風呂に入りにいった。俺は安西が昨日使っていた部屋の整理をし始めた。
この部屋を安西専用の部屋にするため自分の荷物をどかす作業をする必要があった。
(とりあえず必要なものとそうでないもので仕分けするか)
荷物を整理すると随分前に買ったアダルティグッズが出てきた。
(あっぶね!これこんなとこにあったのか!……昨日見つかってないよな)
俺は他にも同じようなものがないか慌てて探し始めた。
そして部屋の片付けが一段落つき、リビングで休憩していると安西が風呂場から出てきた。
昨日は俺の部屋着だったが、今日はパジャマ姿のようだ。だがパジャマはだいぶ年季が入っており、何度も縫った後が見られる。
「そのパジャマいつから使ってるんだ」
「小学5年生くらいからだったと思います」
「そっか思い出のパジャマなんだな」
「いえ、新しいパジャマを買う金も無かったのでなんとかここまで使ってただけです」
安西は特に疑問もない様子でそう答えた。
(パジャマすら買ってもらえなかったのか……)
俺は新しい服とか買いに行く必要があると思い、安西に話しかける。
「明日の土曜日、特に用事ないよね?」
「テスト勉強しようと思っていた以外は特にはないですね」
「明日最低限の生活用品買いに行こう。パジャマも含めて。それ以外必要なものはまたテスト終わってから買いに行こう」
「いえ、今のままでも困らないので大丈夫ですよ。裁縫道具さえお借りできればこのパジャマもまだ使えます」
「いや、もうサイズどう考えてもきつそうだぞ。……とにかく明日買い物に行こう」
「……分かりました」
納得しきれてない感じで安西は承諾した。
(これパジャマだけじゃなく下着とかも小学生の時の無理やり使ってるんじゃないか?……全くひどいもんだな)
「そういえば、昨日と同じ部屋を使ってもいいんですか?」
「おう、いいぞ。まだ十分に掃除できてなくてごめんな」
「いえいえお気になさらず。……そういえば、昨日お借りしたので部屋掃除をしようとしたのですが、使用用途がよく分からないものが出てきて、どこに置くべきか判断つかなかったので、掃除を中断してリビングを掃除していたんでした。もしお時間があったら、あのゴム製品の使い方教えてもらっていいですか?初めて見ました」
「……それはまた今度な。とりあえず部屋の掃除は俺がやっておくから」
「……?わかりました。また今度ですね」
(やっべー見られてたかー知識が疎くて助かったぁ。生きた心地がしないぜ。一刻も早く怪しいものは隠しておかなきゃ)
俺は無理やり違う話に切り替える。
「そういえば喉渇かないか?コーラが冷蔵庫にあるんだが飲むか?」
「コーラですか!懐かしいです。飲みたいです!」
安西はニコリと笑顔になる。俺は急いで冷蔵庫からコーラを取り出した。
(そういえばこの前買ったポテトチップスがまだあったはず……おっ、あったあった)
俺はコーラとコップ、ポテトチップスを置く。
「わぁ!美味しそう……小学生以来で感動です!」
安西は目をキラキラさせてコーラとポテトチップスを眺めている。
俺は2人分のコップにコーラを注ぐと
「よし、乾杯しよ。ほらコップ持って」
俺はコーラを注いだコップを安西に渡す。安西はコップ片手に俺の方を見る。
「じゃあ、今日はお疲れさま!これからもよろしくね!乾杯!」
「かんぱーい、です」
コップがぶつかり心地よい高い音が部屋に響き渡る。これからの生活に少し不安は残るが、今この場に安西がいることが何よりも嬉しく思う俺だった。
お互い椅子に座ると安西が静かに話始めた。
「……私、こんなに怒りに任せて話したの初めてです。途中から自分でも何を言っているのか分からなくなっていたのに、言葉だけ止まらなかった……汚い言葉が止まらなかった。こんなんじゃあの母親と同じだ……」
安西は涙をポロポロ流す。俺は声をかえずにはいられなかった。
「安西さんがあんな母親と同じ訳がない。あの時言っていた言葉は全部正しいよ。俺もそう感じてた。だから気にするな」
俺は安西の頭をそっと撫でてそう言った。安西の目からさらに涙が止まらなくなった。
『……おーい』
なんかかすかな声がポケットの方から聞こえる。スマホを手に取ってみると
『……おーい、おおーーい。聞こえるかぁ。まだ俺がいるぞぉー』
松本と通話中になっていた。すっかり忘れていた。
「ごめんごめん。すっかり忘れてたよ。協力ありがとな。じゃ」
『ちょっとまてい』
電話切ろうとするとそれを止められた。
「……まだ何か用か」
『そんなに邪見に扱わなくてもいいじゃんかよ。俺にも少し感想言わせてくれよ』
俺は仕方なくテーブルにスマホを置きスピーカーに切り替える。
『いやーやるじゃん健。聞いてるだけだったけどなんかドキドキしちゃたよ』
通話越しの音声が部屋に響き渡る。安西も気づいて俺のスマホの方を見つめる。
『舞佳ちゃんもお疲れ!いや~頑張ったね。あの母親にガツンと言ったところは痺れたよ』
「……あんなことを言うつもりは無かったのですが……」
『健がさっき言ってたとおり、言って当然のことだったと俺も思うぞ。そのくらい言われて当然のことをしてたんだからあの母親は』
「あっ……ありがとうございます」
『てか、俺自己紹介まだだったよね。俺は松本裕樹。健とは高校からの友達だ。よろしくな』
「はい。よろしくお願いします」
安西は俺のスマホにぺこりとお辞儀をする。その光景を見た俺は少し笑ってしまった。
『健のやつなんで笑ってるんだ』
「たまによく分からないところで笑いますよね」
『昔からそうなんだよ。変な奴だよな』
松本と安西が意気投合し始める。俺は慌てて止めに入る。
「安西さんがスマホにお辞儀している姿に笑ったんだよ。見ててちょっと面白かったんだ」
「……そんなに変でしたか」
安西は不安そうに尋ねた。
『いや、変じゃないよ。変なのはこいつだから』
「……」
俺は言い返したかったが、言い返すことで安西を変な奴扱いすることになるため何も言い返せなかった。
『ま、なんにしてもこれで一件落着ってところか』
「そうだな、改めて協力ありがとな」
『いいってことよ!あ、でも今度飯奢ってくれ』
「しゃーねぇな」
『今のも録音されてるから忘れるなよ!じゃ、お二人とも仲良くな』
松本はそう言うと通話が切れた。
*
通話が終わると安西は風呂に入りにいった。俺は安西が昨日使っていた部屋の整理をし始めた。
この部屋を安西専用の部屋にするため自分の荷物をどかす作業をする必要があった。
(とりあえず必要なものとそうでないもので仕分けするか)
荷物を整理すると随分前に買ったアダルティグッズが出てきた。
(あっぶね!これこんなとこにあったのか!……昨日見つかってないよな)
俺は他にも同じようなものがないか慌てて探し始めた。
そして部屋の片付けが一段落つき、リビングで休憩していると安西が風呂場から出てきた。
昨日は俺の部屋着だったが、今日はパジャマ姿のようだ。だがパジャマはだいぶ年季が入っており、何度も縫った後が見られる。
「そのパジャマいつから使ってるんだ」
「小学5年生くらいからだったと思います」
「そっか思い出のパジャマなんだな」
「いえ、新しいパジャマを買う金も無かったのでなんとかここまで使ってただけです」
安西は特に疑問もない様子でそう答えた。
(パジャマすら買ってもらえなかったのか……)
俺は新しい服とか買いに行く必要があると思い、安西に話しかける。
「明日の土曜日、特に用事ないよね?」
「テスト勉強しようと思っていた以外は特にはないですね」
「明日最低限の生活用品買いに行こう。パジャマも含めて。それ以外必要なものはまたテスト終わってから買いに行こう」
「いえ、今のままでも困らないので大丈夫ですよ。裁縫道具さえお借りできればこのパジャマもまだ使えます」
「いや、もうサイズどう考えてもきつそうだぞ。……とにかく明日買い物に行こう」
「……分かりました」
納得しきれてない感じで安西は承諾した。
(これパジャマだけじゃなく下着とかも小学生の時の無理やり使ってるんじゃないか?……全くひどいもんだな)
「そういえば、昨日と同じ部屋を使ってもいいんですか?」
「おう、いいぞ。まだ十分に掃除できてなくてごめんな」
「いえいえお気になさらず。……そういえば、昨日お借りしたので部屋掃除をしようとしたのですが、使用用途がよく分からないものが出てきて、どこに置くべきか判断つかなかったので、掃除を中断してリビングを掃除していたんでした。もしお時間があったら、あのゴム製品の使い方教えてもらっていいですか?初めて見ました」
「……それはまた今度な。とりあえず部屋の掃除は俺がやっておくから」
「……?わかりました。また今度ですね」
(やっべー見られてたかー知識が疎くて助かったぁ。生きた心地がしないぜ。一刻も早く怪しいものは隠しておかなきゃ)
俺は無理やり違う話に切り替える。
「そういえば喉渇かないか?コーラが冷蔵庫にあるんだが飲むか?」
「コーラですか!懐かしいです。飲みたいです!」
安西はニコリと笑顔になる。俺は急いで冷蔵庫からコーラを取り出した。
(そういえばこの前買ったポテトチップスがまだあったはず……おっ、あったあった)
俺はコーラとコップ、ポテトチップスを置く。
「わぁ!美味しそう……小学生以来で感動です!」
安西は目をキラキラさせてコーラとポテトチップスを眺めている。
俺は2人分のコップにコーラを注ぐと
「よし、乾杯しよ。ほらコップ持って」
俺はコーラを注いだコップを安西に渡す。安西はコップ片手に俺の方を見る。
「じゃあ、今日はお疲れさま!これからもよろしくね!乾杯!」
「かんぱーい、です」
コップがぶつかり心地よい高い音が部屋に響き渡る。これからの生活に少し不安は残るが、今この場に安西がいることが何よりも嬉しく思う俺だった。