手紙
文字数 1,805文字
花火大会が終わり、家に帰った俺らは最低限の家事を済ませた後、すぐにそれぞれの部屋へと入っていった。俺も疲れが溜まっていたようで、すぐに眠りについた。
次の朝、日曜日なのでいつもより遅く起きる。俺は顔を洗いに洗面所へ向かう。リビングを経由していくと、いつも先に起きているはずの舞佳がいない。大体この時間にはいつも家事をやってくれているが、昨日の疲れでまだ寝ているのかなと思った。俺は顔を洗って歯を磨く。磨きながらリビングの椅子に座ると、机の上に箱が置いてあるのに気づいた。よく見てみると、箱の上にルーズリーフが折りたたまれて置かれていた。俺は何気なくそれを開いてみると、手紙だったようだ。俺はよくわからずそのまま読んでみた。
『健さんへ
昨日の花火大会楽しかったです。ありがとうございました。
健さんには感謝してもしきれない程、恩を感じています。
少しでもその感謝を形にしたいなと思ってプレゼントを選んでみました。
喜んでくれると嬉しいです』
俺は舞佳からのサプライズに驚くと共に、とても嬉しく思った。手紙には、まだ続きがあるようだったので更に読み進めてみる。
『そして、もう一つ考えていたことがあります。
それは、健さんはもっと幸せになるべき人だと思いました。
早く彼女を作って結婚するべきだと思います。
そのためには、私はこのまま健さんの元にいるわけにはいかないのです。
アルバイトをして、私は自立することができると思いました。
これも健さんが私にアルバイトをできる環境を作ってくれたおかげです。
私は私の力でこれからの人生は生きていこうと思います。
短い間でしたが、本当にありがとうございました』
俺は手紙を読み終えたがよく状況が呑み込めなかった。
「なんだよこれ」
俺は歯ブラシを床に落とし、そうつぶやく。そして、急いで舞佳の部屋を確認すると、いると思っていた舞佳の姿は無かった。
玄関に靴もなかった。俺はスマホで舞佳に電話してみたが、舞佳の部屋から着信音が聞こえてきた。
そこで、俺は気づいた。舞佳が家出をしたことに。
(いや、まだ近くにいるはずだ。ちゃんと話をしなきゃ。昨日の夜までいたことを考えると、そこまで遠くへ行っていないはず)
俺は急いで外へ出て、舞佳を探す。近所から最寄り駅周辺を探したが見つからない。
アルバイト先に行き、店長に聞いてみたが特に連絡は受けていないようで、手がかりもなかった。
俺はその後も、学校、前の家の近所、公園、今まで舞佳と行ったところはくまなく探した。
夏の暑さが容赦なく俺に襲い掛かるが、そんなことを気にしてはいられない。体が悲鳴を上げているが、諦めきれず俺は探し続けた。
そうして、夕方になったがどこに行っても姿は見つからず。俺はダメ元で同じ道をたどって探し続けた。
結局それでも見つからず。夜になったので、俺は一旦探すのをやめた。
家に帰ってリビングで休む。いつもなら舞佳がリビングにいて、料理を作ってくれている時間だ。誰もいなくなったこのリビングに、俺は寂しさを覚える。ふと机の上に目をやると、未開封の箱が置かれたままだった。俺はなにかヒントがあるのかもしれないと思い、箱を開けてみることにした。
中から出てきたのはカバンだった。新品で中には何も入っていない。何か入っていたらよかったのに、と思ったのでがっかりした。
(会社で使ってたカバン、そろそろ買い替えようと思ってたんだよな。舞佳はそのことに気づいて買ってくれたんだな。でも、今は何も嬉しくないよ)
俺は何も入っていない新品のカバンを見て、静かに泣いた。涙は止まらず俺はリビングで一人静かに泣き続けた。
(そもそもなんで家出したんだよ……)
俺は家出した原因について考え始めた。色々と考えてみたがどれも確信はなく。手紙に書いてあったことだけが真実なのかもしれない、と俺は思った。
そして、もう一つ気づいたことがあった。それは俺が舞佳に恋をしていたことだった。保護者として接していたつもりだが、舞佳と過ごしていた時間の中で彼女のことをいつの間にか好きになっていたようだ。
(また俺は失恋したんだな・・・もう慣れたと思ったけど、今回のは立ち直れそうにないな)
舞佳に恋心を抱いていた証明をするように、俺の涙は止まることは無かった。そして最後に俺が思ったことは、この気持ちを素直に伝えられればよかったなという後悔だった。