2人の夕食

文字数 2,808文字

「ビピピピピ、ビピピピピ」
 目覚ましの音で目が覚める。俺はいつもの足取りで洗面所に向かうと
「おはようございます」
 リビングのキッチンで何やら作業をしている安西が挨拶をする。
「おぉ、おはよう!もう起きてたんだ」
「はい。いつも1時間前には起きているのでその習慣で起きちゃいました。今はキッチン回りの掃除をさせてもらってます」
 安西の手元を見ると、普段あまり使っていない調理器具を洗ってくれているようだった。
「うわ〜ありがとう!助かるな〜でも無理してやらなくていいからね。気持ちはありがたいけど」
「やりたくてやっているので気にしないでください」
「そっか……じゃあ引き続きよろしく!俺は朝の支度するから」
 俺は洗面所に行き、顔を洗う。洗面所も掃除がされた後みたいでいつもより明らかに綺麗だった。
 (……まじか。俺よりよっぽどしっかりしてるじゃん……)
 安西に感心しつつ、俺は朝のルーティンをこなしていった。

 *

 俺は会社の準備を終えると、安西もちょうど学校の支度が終わったようなので2人でそのまま駅に向かうことにした。
「テスト勉強は順調そう?」
 なんとなく2人でいて沈黙しているのも気まずかったので俺は安西に話を振った。
「このままなんともなければ上位は狙えそうです。最近寝不足気味だったんですが、今日はおかげさまでよく眠れたので勉強が捗りそうです!」
「お〜すごいね〜……安西さんって頭いい感じがするもんな。中間テストはどれくらいの順位だったの?」
「……1位です」
「えーー!?すごっ!俺そんな順位取ったことないよ!すごい頑張ってるんだね」
「……運が良かったのもあると思います。それに最近は少し勉強が難しくなってきて順位をキープできるか心配です」
「そんなに心配する必要あるの?俺は十分すごいと思うけどなぁ」
「一応特待生として入学しててそれを維持しなくちゃ学費が多くかかってしまうので……年間通して10位以内をキープしなくちゃいけないんです」
「なるほどな……だから勉強しなきゃいけなかったのか」
 俺は安西に感心をする。本日2回目だ。
 (……この子凄いな。なんか俺とは大違いだな)
 俺たちはその後も適当に雑談をして、駅に着くと別方向なので改札で別れた。

 *

 俺は会社を終えてすぐさま職場から出る。
 (今日は夕飯作ってくれるってことだったな……めっちゃ楽しみだな)
 俺は野菜炒めの具材について考えつつ、スーパーへ寄った。
 (よく考えてみると野菜炒めって何が必要なんだ。……自分が好きなもので考えてみるか)
 俺は自分が好きな野菜炒めを想像しながら具材をカゴに入れていった。
 買い物を済ませた俺は、レジ袋を手に持ち再び家へと向かう。
 (なんか好き放題選んでたら、買いすぎてしまったな……)
 ずっしりと重みを持ったレジ袋は、持っている手のひらに食い込んで痛かった。
 手のひらが赤くなる頃にようやく家に着いた。鍵を開けるとリビングの方から物音がした。リビングへ入ると、安西が部屋の掃除をしてくれていた。
「あっおかえりなさいです」
 なんか言い慣れない感じで安西は言う
「おぉ、ただいま。なんか部屋掃除まで悪いな」
 俺はレジ袋を机の上に置いた。安西はそれに気づいて中身を見る。
「これ野菜炒めの具材ですか?……野菜はいいとしても肉とか海老とか入ってるのは一体……」
「いやぁ〜なんか自分の好きな具材のこと考えて買ってたらこんなことになっちゃったんだよね……まぁ、あるに越したことないと思ったから」
 俺はあたふたしながらそう答えると
「……ふふっ相変わらず変なところありますよね……分かりました。藤村さんの好きな食材盛りだくさんの野菜炒めで頑張ってみます」
 安西は、少し笑みを浮かべてそう答えた。俺はその妖艶な笑顔とフォローしてくれる優しさにまたもドキッとしてしまう。
 (……高校生にフォローされるなんてなんか情けないな俺……しかもそれにときめいちゃうところもな……)
 安西は食材を持ってキッチンへ。俺はシャワーを浴びるため一度風呂場へ行くことにした。

 *

 シャワーを浴び終えて着替えてからリビングに戻るといい香りが漂ってきてた。
「おっ、めっちゃいい香りがするね」
「もう少しで出来上がりそうです。どのお皿に盛りましょうか?」
「あー……とりあえず大きめの皿に盛ってもらって、そこから分けて食べようか。小皿は俺がテーブルに持っていっておくよ」
「りょーかいです。よろしくお願いします」
 俺はキッチンから必要な皿だけ取り出して大きな皿を安西に渡す。それから小皿2つをテーブルに置く。
「そういえば、お米勝手に炊いちゃってたんですけど大丈夫でしたか?聞くの忘れちゃってごめんなさい」
「いやいや、全然大丈夫だよ!むしろありがとう。俺が前もって言っておくべきだったね」
 そう言うと安西はほっとした様子で野菜炒めを大皿に移す。俺は2人分のお茶碗を取り出しごはんをよそう。
 テーブルに一通り料理が並ぶ。箸とかを用意して机に並べて食べる準備が整う。
「うわぁ〜うまそうだな。よし一緒に食べようか」
 俺がそう言うと安西はコクリと頷く
「よーし、じゃあいただきます!」
「……いただきます!」
 俺はまず野菜炒めを一口食べてみる。色んな具材が入っているので様々な味が口の中で広がる。丁寧に切られているためか食べやすく、味付けもちょうどいい。
「……なにこれ無茶苦茶美味しい。野菜炒めってこんなに美味くなるものなのか……なんかこの味付けも癖になりそう」
 俺はそんな感想を言いながらご飯も食べる。この絶妙な味付けがご飯ともマッチしてついご飯を食べる箸が進んでしまう。
 安西の方を見ると俺のそんな様子を見て笑っていた。
「ふふふっ……なんか小学生みたいに無邪気に食べますね」
「なんだとぉ。いいから安西さんも早く食べなよ」
 俺は食べることを促す。安西は言われた通り野菜炒めを口に運ぶ。
「……美味しい。肉と海老入れるだけでこんなに味が広がるなんて……でももっと味付け変える余地はありそうね」
 安西も美味しそうに食べつつも自分の作る料理を分析し始めた。
「ぷはは!安西さんってめっちゃ真面目なんだな。食べてる時にそんな分析するなんて」
 俺はつい笑いながらそう言った。
「……自分の自信ある料理なので妥協したくないだけです。そんなにおかしいですか?」
 安西は少し頬を膨らませてそう言った。
「ごめんごめん、素直に関心したんだよ。どんなことでも真剣に取り組むことは素晴らしいことだよ」
「じゃあなんで笑ったんですか?」
 まだ頬を膨らませている
「それは……素直に喜んで食べていると思ったら急に真面目な顔つきになったからそのギャップについ笑っちゃった」
「よく分からないです!」
 安西は納得いかないといった表情でそう言った。
「ま、とりあえず食べようぜ。冷めないうちに」
「そうですね」
 それから俺たちは黙々と食べ始めた。
 
 
 
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